2012 Fiscal Year Research-status Report
イエスの神義論:聖書学的アプローチと組織神学への答え
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23520086
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Research Institution | Nishogakusha University |
Principal Investigator |
本多 峰子 二松學舍大學, 国際政治経済学部, 教授 (00229262)
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Keywords | 宗教学 / 西洋古典 / 倫理学 / 思想史 |
Research Abstract |
23年度に引き続き、申請時に予定していた書籍購入、ケンブリッジ大学神学部図書館及びティンダルハウス図書館での資料収集などにより研究を進め、聖書学の枠内でのイエスの神議論をまとめ、11月に東京大学総合文化研究科の博士論文リサーチコロキアムで発表した。また、その一部を日本聖書学研究所月例会および日本新約学会の全国大会で発表した。渡英は申請どおりの日程で行ったが、二松学舎旅費規程により、結果として24年度の交付額はすべて旅費に使わせていただいた。 リサーチコロキアムの結果を受け、また、現在の学会において史的イエスの真正な言葉の基準がまだ確定していないとの認識を深めたことから、博士論文は、「イエスの神義論」ではなく「共観福音書の神義論」との方向で進めることにしたため、当初計画していた24年度内での博士論文提出は断念したが、今までの論考を無駄にすることなく、マルコによる福音書の神義論を中心に、共観福音書が提示する神義論的問いとその答えを現在論考中である。 聖書学的論考の対象を史的イエスから福音書に記述されたイエスに変更したことによって、自分がキリスト教文学中心の英文学者として悪と苦難の問題にとり組んできた経験を生かし、文学としての福音書が執筆当時の読者のいかなる問題に答えようとしているかを、福音書に描かれている人々にとっての問題と答えとともに、論じることができるようになった。この論考によって、本研究は、キリスト教がその起源においていかなる苦難の問題にいかに答えようとしていたか、いかなる救いを差し出すものであったかを論じつつある。そのことによって病や禍を罪の罰と見る傾向、ユダヤ教への偏見、キリスト教を単なる心の問題として信仰生活と社会的実践を分けて考える考え方など、21世紀の今日にも見られる否定的側面を正す研究としても、本論は進んでいる。学問的にも、社会的にも貢献できると期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、23年度24年度の研究計画にあたる聖書学的論考の枠内でのイエスの神義論は東京大学総合文化研究科博士論文としてまとめ、24年度中に提出する予定であったが、当該論文のリサーチコロキアムが大学側の査読教員の退任などの理由により1年遅れたことと、リサーチコロキアムの結果を受けて、論文の課題を「イエスの神義論」から「共観福音書の神義論」と変更することにしたため、予定通り論文提出することはできなかった。しかし、本採択研究の進行としては、予定通り、「イエスの神義論」を、神の憐れみとイスラエルの民への神の信義を実現する能動的神義論との方向でまとめることができている。これは、組織神学での神義論で、回答を神の臨在や、苦難にある者たちへの神の共感に見る議論とつながり、苦難にある人々への実際的活動が本来のキリスト教の答えであろうとの本研究の予想される答えと和合する感触を得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
以下のように執筆済みのイエスの思想についての草稿の議論の不足、欠点を見直し、夏期休暇中に、ケンブリッジ神学部図書館およびティンダルハウス図書館で聖書学関係及び組織神学関係の資料を収集し、聖書学的論考に基づいて組織神学の神義論への提言となる研究をまとめたい。重要な部分については、二松学舎大学の紀要の他、聖書学研究所の論集に投稿し、学会に問いたい。 序文 問題の所在、 I章 悪の問題と神の義―思想史的背景 (1悪の起源と悪の本質についての理解、2「神の義」の概念、3禍を下すのは神か?、4恩寵と応報の緊張、5病と穢れの問題、6悪霊とサタン、7貧者、弱者の存在と神の義、8死後の報いの概念の発達、9悪と罪の問題についての小結論)、2章 神の同情(1序―問題の所在と本章の目的、2splanchnizomaiの字義的意味eleeo、oiktiro、3福音書における「憐れみ」、4インマヌエルなる救い主、5本章の結論)、3章 罪と赦しの問題(1序、2罪人とは誰か、3イエスの譬えにおける罪と赦しの問題、4本章の結論)、4章 応答としての行為(1序、2ヘブライ社会での奴隷の性質、3イエスの譬えにおける奴隷の役割、4神の「憐れみ」と人間の隣人愛の行為の要請、5本章の結論)、 5章 病の癒し(1序、2イエスの治癒奇跡の伝統的見方―罪の赦し(禍の神義論)-の再考、3事例分析、4禍の神義論のアンチテーゼ)、6章 穢れ(1序、2イエスによる穢れの清め)、7章 サタンからの解放(1序、2事例分析)、8章 貧しい者への福音(1序、2「幸いなるかな貧しい人々は。神の国はあなたがたのものだから。」(ルカ6:20)、3 神の配慮 (ルカ12:22-31/マタイ6:25-33)、4イエスの譬えにおける裕福な者、貧しい者への使信、5本章の結論)、9章 結論。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(6 results)