2013 Fiscal Year Annual Research Report
石塔と金石文を素材とする思想史研究の新たな領域と方法の開拓
Project/Area Number |
23520095
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 弘夫 東北大学, 文学研究科, 教授 (30125570)
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Keywords | 石塔 / 金石文 / コスモロジー / 鎌倉仏教 |
Research Abstract |
墓碑・五輪塔・板碑など、この日本列島にはほとんど無数といってよい石塔類が存在する。その数量は文献史料を圧倒するものがあり、そこに刻まれた銘文とともに、ある時代の世界観や時代思潮を捉えようとする際の好個の資料となりうるものと考えられる。しかし、従来、思想史や精神史の資料として石塔とその銘文を用いようとする試みはほとんど皆無だった。 本研究はそうした研究の現状に鑑み、(1)日本の中世に焦点を絞り、大量に残存する五輪塔・板碑などの石塔群を素材として取り上げ、その配置状況や銘文の分析を通じて当時の人々が共有するコスモロジーと死生観を解明し、古代・近世と比較しつつ、その独自性を明らかにすること、(2)以上の考察から明らかにされた中世固有の時代思潮を背景に置くことによって、従来の思想史研究の大半を占めていた、いわゆる鎌倉仏教、神道思想、本覚思想といった体系的思想に、新たな角度から意義と意味を見出すことを目指すこと、(3)本研究を日本中世という特定領域の研究にとどめることなく、石塔などの非文字資料や金石文などの体系化されないテキストを用いていかに時代思潮を再構成していくかという、思想史一般の方法論の問題として深化させ、その成果を国内外に発信すること、の3点を基本目的としてなされた。 所期の目的はほぼ達成することができたと考えている。同じ石塔であっても、中世においては死者を浄土に送り出す供養塔の役割を果たしていたのに対し、近世になると死者の霊魂の依り代としての墓標の機能を担ったことを、中世から近世へのコスモロジーの転換に位置づけて明らかにしたことは、本研究の最大の成果である。また、法然流の専修念仏が中世社会においていかに異質な存在であったかという点や、近世における幽霊の大量発生の原因を、金石文を資料として広いコンテクストのなかで明らかにしたことも、重要な成果であると考えている。
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