2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520099
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
橋爪 大三郎 東京工業大学, 社会理工学研究科, 教授 (10218399)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 本居宣長 / 古事記伝 / 言語ゲーム / プレ近代 / ネイション |
Research Abstract |
研究の第一歩として、平成23年度に本居宣長『古事記伝』の本文を電子テキストに変換する予定であったが、その作業を担当するはずの叶飛氏(東京工業大学特別研究員)が年度当初に中国に帰国してしまい、大学教員の常勤職をえたので、担当できなくなった。このため、この事情が判明した平成24年度初めに、研究計画を修正し、電子テキストによらない伝統的な文献読解の方法によることとした。 このため、近世の言説の総配置を明らかにする必要が生まれ、本研究に関わる近世日本の関連図書を多く購入した。あわせて、『古事記伝』の読解作業を進め、本居宣長が方法を自覚的にのべている序論の部分を特に詳しく読解した。この作業を通じて、(1)宣長は、日本語の起源を問題とし、漢字と仮名の混合として均衡した日本語のテキストから、漢語の意味を捨象し、漢字到来以前の無文字時代の日本語の感性共同体を再構成できることを主張していること、(2)この主張は、仁斎、徂徠の朱子学批判を、日本語テキストに適用したものであること、(3)こうして再構成される日本語の感性共同体は、世代を越えて再生される言語ゲームを実質とすること、などの基本的フレームが確認された。 これらの考察を通じて、『古事記伝』の方法が、用例を集めて配列し、それを見ることで原義が「わかる」ことを重視する、ヴィトゲンシュタインの言語ゲームと類同の方法にもとづくものであることが、端緒的に明らかになってきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文字テキストを電子テキストに変換し、ソート、テキストマイニングそのほかの操作と分析を行なう専門技術をもっている叶飛氏が、中国に帰国して研究チームを離れたことによって、研究のスタートが遅れ、計画も修正する必要に迫られた。しかし、研究対象ならびに研究方法は、この修正によっても揺るぎないので、ようやく研究を開始してからは、順調に作業を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降は、『古事記伝』のテキストの構造から検出された「宣長の言語ゲーム」を、後期ヴィトゲンシュタインの言語ゲームの議論と照らし合わせ、無文字時代の日本語の感性共同体を継受する実体として、幕末の勤皇の志士たちの共同性が構築されたことを実証する。 これを前提に、宣長が言語ゲームのロジックによって実証したネイションの祖型が、平田篤胤→吉田松陰へと経由するなかで、より実体的なネイションの理念へと拡大し、いわゆる尊皇思想へと結晶化していく過程を、実証していく。 研究費については、今年度、基本図書の購入を一部済ませた。翌年度、研究補助者を得て、効率的に文献読解が進むと期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に続き、伝統的な読解手法による分析整理を進めるほか、研究成果の一部を軽印刷によって公表する。これらのための、人件費ならびに物件費、印刷費などが必要となる。
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Research Products
(2 results)