2011 Fiscal Year Research-status Report
フランシスコ会の美術-「聖霊」と「聖霊派」の図像について
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23520114
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
谷古宇 尚 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (60322872)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / 中世美術 / イタリア美術 / フランシスコ会 / ナポリ / 宣教 / 殉教 / アンジュー家 |
Research Abstract |
アッシジの聖フランチェスコがもともと抱いていた宣教についての考え方が、フランシスコ会内部の聖霊派(厳格派)においてよく保たれていたと想定し、フランチェスコ自身やフランシスコ会士の宣教に関する図像の調査を行った。シエナやパドヴァなどに描かれる殉教場面が、実際に起きた事件をもとに創案された新しい図像であり、当時の東西交流の状況を踏まえた上で解釈すべきであることを、論文にまとめイタリアの学術専門誌に発表した。そこでは中世末に、聖遺物と視覚イメージが相補的な関係にあったこと、また当時初めて中国までヨーロッパ人が到達し、キリスト教の宣教が行われた時代的文脈の重要性を指摘した。ヨーロッパとアジアとの関係のあり方は、16世紀以降の大航海時代以降とは大きく異なり、キリスト教図像を考察する際には、つねにこれを念頭に置く必要がある。13~14世紀にインドや中国に赴いた宣教師の活動と、建築や美術に及ぼした影響についての考察を始めている。 ナポリのサンタ・キアーラ修道院やサンタ・マリア・ドンナレジーナ修道院は、14世紀前半にフランシスコ会聖霊派との関係が深かったが、多くの絵画装飾が残されており、聖霊派の思想と美術とのかかわりを考える上で、様々な手掛かりを与えてくれる。特に「黙示録」や「最後の審判」の図像は、フィオーレのヨアキムの影響を受けた終末論と結び付けられるが、ボナヴェントゥーラによって定式化されたフランシスコ会穏健派(主流派)の歴史哲学とは、対比的にとらえることができるだろう。後者の「キリスト中心主義」と呼びうる思想を、フランシスコ会の母寺であるアッシジのサン・フランチェスコ聖堂の装飾の中に見出しうるか、またそれと対照的な図像プログラムがナポリで構想されていたのか、という点に注目しながら、調査を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フランシスコ会修道士の殉教の図像に関する論文を、1年目でイタリアの学術専門誌に発表できたことは、大きな成果であった。早い段階で欧文の論文を発表したことにより、これまで交流のなかった研究者とも情報交換が容易になり、今後、共通の問題意識を持って研究に取り組めるようになると考えられる。 本研究は、基本的に13~14世紀を対象としているが、16世紀以降の大航海時代と対比的に考察することによって、より有意義なものになることを理解することができた。16~18世紀の東アジアにおけるヨーロッパ文化の浸透と現地化に関しての研究に取り組む者は多いと考えられるが、本研究の対象とする時代も含めて、広い視野で東西交流史を再検討するきっかけを得ることができたと言えよう。 また、殉教の図像を調査する中で、カトリックの正統教義やフランシスコ会主流派の思想に見られる歴史観が、当然ながらフランシスコ会の絵画装飾を検討する上で重要であることを再認識した。それにより、主要な調査対象であるナポリのサンタ・キアーラ修道院やサンタ・マリア・ドンナレジーナ修道院は、聖霊派の影響が相対的に強いと考えられるが、そこに描かれる図像を新たな視点で考察する手掛かりを得ることができた。 アッシジのサン・フランチェスコ聖堂をはじめ、新しい問題点が浮かび上がるにともなって、イタリアでも検討すべき作例は多いが、フランシスコ会の宣教の重要な拠点であったインドのゴアや中国の泉州などについても、何らかの方法で本研究に組み込める目処が付き、具体的な調査に着手できれば理想的だった。
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Strategy for Future Research Activity |
フランシスコ会聖霊派に注目する本研究の文脈の中で、カトリックの正統教義を直接反映するはずの総本山アッシジの装飾プログラムを再検討することは、新たな知見をもたらしてくれると予想される。まず、アッシジに描かれる四大教父の図像についての考察を、次年度の研究計画の中に加える予定である。その上で、同聖堂の上院・下院の各所に配置される「黙示録」図像の考察を行い、これまでたびたび取り上げられてきた「フランチェスコ伝」など主要部分の研究史を見直して行く。ナポリのサンタ・キアーラ修道院とサンタ・マリア・ドンナレジーナ修道院の絵画装飾についても、正統教義の歴史観を視野に入れつつ、おもに「最後の審判」と「黙示録」について調査する。特に「最後の審判」にかかわることであるが、初期キリスト教時代からの聖堂装飾の歴史を視野に入れつつ、フランシスコ会の図像の位置づけを考察する。サンタ・キアーラについては、16世紀の描き直された回廊のフレスコ画の分析を継続する。13~14世紀にフランシスコ会士が殉教者を出したインドのゴアには、いまでも数多くの聖堂が残されている。これらは16世紀以降のものであるが、聖堂の保存の状況や、どのような遺品があるのか、まず文献を収集して予備的な調査を行う。中国の泉州は、北京と並んで司教座もかつて置かれていた都市であり、フランシスコ会士の銘文入りの墓碑も残されている。こうしたものの検討を始め、イタリアだけでなく広くアジアとの交流史も視野に入れた上で、フランシスコ会聖霊派にかかわる美術の考察を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度に、約18万円の未使用額がある。これは、これまで現地での調査に使用してきた一眼レフカメラが故障し、10年ほど前の機種だったため、買い換えることを計画した。しかし、購入予定のニコン製カメラが、タイでの洪水の影響で発売が遅れ年度内に購入できなかったため生じた未使用額である。さらに、年度末が近づいてきた時点で、本研究に必要な図書資料が国外で発売されたが、年度末までに精算と納品が間に合わないことが予想され、年度が替わって以降に購入することにしたため生じたものである。 平成24年度は、イタリアと、フランシスコ会の宣教地での調査を、2回行うために旅費を使用する。 また、中世美術史関連図書、また写真資料購入のために経費を計上する。 他には、写真機材購入、欧語論文校閲や資料整理のために研究費を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)