2012 Fiscal Year Research-status Report
フランシスコ会の美術-「聖霊」と「聖霊派」の図像について
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23520114
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
谷古宇 尚 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (60322872)
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Keywords | フランシスコ会 / 最後の審判 / フィオーレのヨアキム / ゲラルド・ダ・ボルゴ・サン・ドンニーノ / アッシジのサン・フランチェスコ / フィデンツァ |
Research Abstract |
イタリア北部フィデンツァの大聖堂(17世紀まで参事会付聖堂)は、ロマネスクからゴシック期にかけて建造されたものであるが、その建築と彫刻はイタリア美術史上、主要な作品の一つに数えられる。しかし内陣の四分の一球面状の壁面に残される13世紀半ばに制作されたと考えられる壁画について、これまでほとんど研究されてこなかった。フランシスコ会の聖霊派(厳格派)と美術の関係を考察する本研究において、その特異な図像は注目すべきと考えられる。 フィデンツァの内陣には、中央に審判者キリストが座し、聖フランチェスコが書物を右手で高く掲げながら立ち会っている。「最後の審判」はファサード裏壁面に置かれるのが普通であり、内陣には「天上の栄光」か、審判とは区別されるべき黙示録の場景が描かれるのがふさわしい。 フィデンツァの図像は、二通りに解釈される可能性がある。一つは、フィオーレのヨアキムの思想内容を、この画像は肯定的にとらえているとする解釈。1260年から新しい「聖霊の時代」が始まり、霊的な修道士たちが優位を占めるようになるというヨアキムの見解は、時間の展開とその終わりを強調する「最後の審判」の図像がより適合する。1254年にフィデンツァ出身のゲラルド・ダ・ボルゴ・サン・ドンニーノはヨアキムの著述に註解を加えたが、すぐさま教皇庁によって異端と断罪された。時期と場所の符合もこの解釈を支持しそうである。しかしながらフランチェスコの持つ聖書は、教会の正統的な教義、すなわちキリストの十字架上の死による救いの業の成就を示そうとしているとも考えられる。 今年度の研究では、この対立する二つの解釈を提示するに至ったが、この視点はアッシジのサン・フランチェスコ聖堂やナポリのフランシスコ会の女子修道院聖堂だけでなく、黙示録にモチーフをとる中世後期の図像を広く再考する出発点となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、フランシスコ会修道士の殉教の図像に関する論文をイタリアの学術専門誌に発表したが、今年度も引き続きフィデンツァ大聖堂における「最後の審判」と聖フランチェスコの図像について、イタリア語で発表することができた。ただし、まだ論文の形で刊行していないので、これは今後の課題である。またパルマ洗礼堂のフレスコ画などにも触れながら、多少対象を広げて内容をまとめる必要もある。 この発表の内容は、昨年度、殉教の図像を調査する中で課題として浮かび上がってきたこと、すなわちカトリックの正統教義やフランシスコ会主流派の思想に見られる歴史観が、フランシスコ会の絵画装飾を検討する上で重要であって、聖霊派・厳格派特有の図像が存在するか、あるいはその影響を強く反映する装飾プログラムはあり得るのか、といった疑問から導き出されたものであり、この点からは研究が一定の方向に進捗したといえる。 しかしフランシスコ会の宣教と殉教、またそれと美術作品との関わりを、広く16世紀以降の大航海時代も視野に入れた東西交流史を再検討する契機とすることまではできなかった。フランシスコ会の宣教の重要な拠点であったインドのゴアや中国の泉州の調査についてもほとんど手をつけていない。 ナポリのドンナレジーナ聖堂のファサード裏壁面を覆う「最後の審判」をはじめとして、この一見ふつうのものと見える図像の再検討が急がれるといまのところ考えられ、来年度は宣教と殉教について調査が進まないかもしれないが、研究のまとめの段階でいかに有機的に結び付けて論じられるかの方針を得る必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究成果は、「天上の栄光」「最後の審判」あるいはそれ以外の「黙示録」の場面を考察するための新しい見方を与えてくれた。これらの図像は、アッシジの聖堂下院・上院、ナポリのドンナレジーナ聖堂とサンタ・キアーラ聖堂の装飾で重要な位置を占めているが、それぞれの主題の選択の意図は必ずしも明らかにされていない。このことはとくに厳格派・聖霊派と、より正統的な立場とを対比的にとらえることによって理解しやすくなると考えられるので、今後はまず包括的にフランシスコ会聖堂の作例、特に内陣装飾を分析・整理した上で、アッシジとナポリの図像の意義を確認する。その際、初期キリスト教美術以来の内陣装飾プログラムと比較も重要となる。その上でフィデンツァ大聖堂の図像解釈についての理解も深めたい。 「聖霊」あるいは「聖霊の時代」の問題を検討することは、中世後期から近代にかけての時間観について考察することにもつながる。フランスの聖堂扉口のティンパヌムの作例からよく知られているように、ロマネスク期からゴシック期にかけて「最後の審判」の図像が「天上の栄光」よりも優位を占めてゆくが、同じことが13世紀以降のフランシスコ会の聖堂装飾に見られるかをまず検討し、アウグスティヌス的な引き延ばされたモラトリアムとしての時間観と、ヨアキム的な展開してゆく時間観との対比が、この変化を説明することができるかを確認する。具体的には、ナポリのドンナレジーナ聖堂や、フランチェスコ会の聖堂ではないがフィレンツェのポデスタ宮の礼拝堂の「最後の審判」から調査を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に未使用額193,858円があるが、これは25年3月9日~3月16日の出張旅費が25年4月5日に振込処理されたためで、すでに使用済みとなっている。
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Research Products
(1 results)