2013 Fiscal Year Research-status Report
フランシスコ会の美術-「聖霊」と「聖霊派」の図像について
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23520114
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
谷古宇 尚 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (60322872)
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Keywords | フランシスコ会 / 最後の審判 / 天上の栄光 / 黙示録 / アッシジ / フィデンツァ / 宣教 / 火の試練 |
Research Abstract |
昨年度の研究成果は、イタリア北部のフィデンツァ大聖堂内陣に描かれた「最後の審判」と「アッシジの聖フランチェスコ」の図像を解釈するための道筋を示したことだが、これについてはフランシスコ会聖堂の絵画装飾プログラムのより広い文脈の中で考察することによって、より明確な見取り図を描くことができる。そのため本年度は、アッシジにあるサン・フランチェスコ聖堂の図像について包括的に検討した。同聖堂は、フランシスコ会の母寺と言えるが、その図像は他の場所での絵画装飾の規範として働いたと考えられる。特に取り上げたのは、聖堂上院の「旧・新約伝」「聖フランチェスコ伝」「黙示録」「四大教父」「四福音書記者」、下院の「聖フランチェスコの栄光とフランシスコ会の三つの徳」と17世紀に「天上の栄光」から描き替えられた「最後の審判」である。明らかにされたのはこの聖堂において、キリストの受難と復活により救いの計画は成就したという教会の正統的な信仰が表わされている点、またそれと密接に関連することだが、上院と下院に見られる「黙示録」の場面やモチーフは、善によって悪が克服された状態を示そうとしている点、すなわち悪が凌駕する終末の破滅的な様相や、最後の審判の懲罰的な側面を描き出そうとしているのではないことである。 他に、聖フランチェスコの図像に関して「火の試練」の調査を行った。この場面は、フランシスコ会の厳格派・聖霊派が重要な役割を担った宣教について考察するきっかけとなる。結論としては、13~15世紀に描かれた「火の試練」は、異教徒との対立が強調されており、聖フランチェスコの福音を伝え、平和をもたらす精神を反映するものではないこと、また「フランシスコ会士の殉教」場面に表現されているような、宣教に赴く修道士に勧められた従順な姿勢を見てとることは難しいことが導き出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アッシジのサン・フランチェスコ聖堂の絵画装飾プログラムの分析結果をもとにして、フィデンツァ大聖堂内陣の「最後の審判」と「アッシジの聖フランチェスコ」の図像について再考した研究発表をイタリア語で行った。また、ヨーロッパから遠く離れた場所での宣教活動に大きな役割を果たしたフランシスコ会の聖霊派を考察する上で、重要な物語場面である「火の試練」について英語で研究発表することができた。いずれも論文として刊行されるのが次年度以降に先送りされたが、美術史的な側面ではなくフランシスコ会の歴史的・思想的側面からの分析が発表では不十分だった点があり、補充してまとめる予定である。 キリスト教の時間観、あるいはキリスト教の歴史哲学における二つの異なった様相、すなわち初めの時から終わりの時までを一直線的に捉える見方と、キリストの受難と復活によって神の救いの計画としての時間の流れは完結したものとみる見方とを、それぞれ「最後の審判」と「天上の栄光」の図像に結び付けて考察する方法が有効であると考えられるが、その際「黙示録」をどのように理解するかが鍵となるようである。終末の破滅的な情景を伝えるものとして受け取るか、あるいはそれを乗り越える善の比喩として解釈するかであり、「黙示録」図像をより多くの作例に基づいて分析する必要があることがわかったのは有益である。 フランシスコ会の宣教については、いまのところ「フランシスコ会士の殉教」と「火の試練」の場面を解釈する共通する枠組みができていない。宣教や殉教は、フランシスコ会の厳格派・聖霊派の修道士にとってのキリスト教的時間観と関連することであるが、十分に考察することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度から、13世紀半ばにフィデンツァ大聖堂の内陣壁面に描かれた絵画について調査しているが、それは通常とは異なり、内陣に「最後の審判」が配置されている点、また書物を高く掲げるアッシジの聖フランチェスコの像が表わされている点で特異であった。この図像を解釈するためには、教皇庁により異端とされたフランシスコ会士ゲラルド・ダ・ボルゴ・サン・ドンニーノによる失われた著作『永遠の福音書』(『キリストの霊的な福音書』とも呼ばれる)や、ゲラルドと同じ立場にあった当時のフランシスコ会総長ジョヴァンニ・ダ・パルマの思想と、ボナヴェントゥーラや教会の正統的な教義とを、対比しながら理解する必要がある。次年度はキリスト教の時間観にかかわるこうした点について考察し、フィデンツァの図像についてまとめる。 これと関連するが「黙示録」の図像の整理を試みる。主要なものは、ナポリのサンタ・マリア・ドンナレジーナ聖堂の壁画断片と、やはりナポリに由来するシュトゥットガルトの州立美術館所蔵の2枚の板絵である。12世紀にさかのぼるが南イタリア、オートラント大聖堂の舗床モザイクは黙示録のモチーフが内陣にも表されており、ナポリ作品を考える上で意味をもつと考えられる。やや時間的に広いスパンの中で作例を取り上げたい。 また、新しい使徒である特に厳格派・聖霊派のフランシスコ会士たちと、霊に満たされたキリストの使徒たち(十二使徒にかぎらず使徒行伝に記される人々)との類縁性を考察するために、聖霊の図像について中世を中心に収集し分析する。アッシジのサン・フランチェスコ聖堂上院で「聖霊降臨」は入口壁面の大きな区画を占めている。来年次から再来年次にかけて、フランシスコ会の聖堂装飾において聖霊の表現が特別な意味を担っていたかを調べてゆく。
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Research Products
(2 results)