2014 Fiscal Year Research-status Report
フランシスコ会の美術-「聖霊」と「聖霊派」の図像について
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23520114
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
谷古宇 尚 北海道大学, 文学研究科, 教授 (60322872)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | フランシスコ会の美術 / 最後の審判 / 天上の栄光 / 黙示録 / アッシジ / フィデンツァ / 宣教 / 殉教 |
Outline of Annual Research Achievements |
イタリア北部の町フィデンツァの大聖堂の内陣には、13世紀半ばに制作された絵画が残されている。初期キリスト教期以来、内陣のアプシスを覆う4分の1球面状の壁面には、通常「天上の栄光」が置かれるのが普通であった。フィデンツァでは、そのゴシック的な建築形態から、半円のカーブを成す壁面に絵画が描かれているが、いずれにしろその図像が「最後の審判」である点が注目される。聖堂でもっとも重要なこの場所に「最後の審判」が表わされる最初期の例と考えられる。またそこには、アッシジの聖フランチェスコの像が大きく目立って描かれていることから、この図像が聖堂の特別な意味を担う場所に導入されたことと、フランシスコ会の思想との関連が予想される。 一方、ナポリのフランシスコ会の女子修道院に付属するサンタ・マリア・ドンナレジーナ聖堂では、ロッフレード礼拝堂の入口周辺の壁面に「黙示録」の断片が残されている。これは、ナポリに由来するシュトゥットガルトの州立美術館所蔵の2枚の「黙示録」板絵と、様式的・図像的に結び付けられる。これらの作例は、聖書の記述の流れに従った物語的な連続描写というよりは、「黙示録」に書かれる様々なヴィジョンを一挙に提示するような画面構成となっている。すなわち、時間的な推移を感じさせるようなものではなく、「黙示録」のメッセージを統合的に伝えるものとなっている点が重要である。それにより、ナポリの「黙示録」は終わりの時の破滅的な様相を描写するのではなく、悪の凌駕される状況を総体的に表そうとしていると理解されるのである。フランシスコ会の母寺であるアッシジのサン・フランチェスコ聖堂上院の左翼廊にも「黙示録」場面が描かれているが、これも同様の文脈で理解されるべきものと考えられる。 フランシスコ会に関わるフィデンツァとナポリの作例が、終末論の二つの対比的な側面を表していることが明らかになるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
いずれもキリスト教の終末論と関連する「最後の審判」と「黙示録」の図像に注目することによって、13・14世紀の美術をフランシスコ会の文脈から理解する道筋を得ることができた。特にフィデンツァの「最後の審判」は、これまでの既存の研究では取り上げられなかった作例であり、ナポリの「黙示録」に関しても、フランシスコ会にとってはもっとも重要で、規範となるべき図像であったアッシジのサン・フランチェスコ聖堂の「黙示録」場面と結び付けて考察することができた点で新しい研究ということができる。 「最後の審判」の要素を含まない「黙示録」の図像は12世紀頃から散見されるが、こうした作例を含んだ文脈の中でフランシスコ会の図像を考察できれば、より広い視野の中で中世後期の美術を理解することができると考えられる。また絵画作品を、フランシスコ会の内部に見られる思想的な対立、すなわち正統的なボナヴェントゥーラと、ゲラルド・ダ・ボルゴ・サン・ドンニーノやジョヴァンニ・ダ・パルマ、あるいは厳格派・聖霊派との対比的な関係から理解できれば、より興味深い考察ができると予想されるが、最終年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
フィデンツァとナポリの作例を中心に「黙示録」と「最後の審判」の図像を整理し、フランシスコ会が13・14世紀において果たした思想的な役割と結び付けて考察する。その際、フランシスコ会内部の厳格派・聖霊派と、教会の正統的な教義との関わりが問題となるが、厳格派・聖霊派が大きな役割を果たした宣教についても、その絵画表現とともに有機的に関連付けてゆく。またこれまで、アッシジのサン・フランチェスコ聖堂上院のファサード裏壁面に大きく描かれている「キリストの昇天」と「聖霊降臨」の場面についての考察を行うことができていない。またこれまで言及されることの少なかったアッシジのサン・フランチェスコ聖堂上院右翼廊の「ペテロ伝」「パウロ伝」場面についても、その配置される場所の重要性からして、反対側の左翼廊に描かれる「黙示録」と関連付けて論じられるべきである。本研究課題の最終年度に当たり、国内外で学会発表を控えているが、これまで明らかにした点だけにとどまらず、今後取り組むべきフランシスコ会の美術の研究テーマを提示するように努めたい。
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Causes of Carryover |
物品の納入は3月のものであったが、その支払が4月にずれ込んだため発生したものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由により次年度の使用ではない。
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Research Products
(4 results)