2011 Fiscal Year Research-status Report
コッラード・ヴィーニの公共彫刻の政治史的・文化史的解読
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23520116
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
甲斐 教行 茨城大学, 教育学部, 教授 (60323193)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 美術史 / ファシズム / イタリア / フィレンツェ / 具象彫刻 |
Research Abstract |
夏期(7月末から9月末)及び秋期(11月末から12月初)にフィレンツェに滞在して研究を実施した。具体的な内容は以下の通りである。まずフィレンツェの美術史研究所(Kunsthistorisches Institut in Florenz)およびハーヴァード大学付属ベレンソン研究所(Villa I Tatti)において美術史文献を調査し、コッラード・ヴィーニおよび周辺の同時代の彫刻家に関する資料を収集した。またヴィーニの弟子である画家フィオレンツォ・コペルティーニ氏を7月に取材、同じく弟子の彫刻家ヴィットーリオ・オッタネッリ氏を12月に取材した。11月末には、フィレンツェのレ・レッテレ社より刊行された美術史専門誌『ARTISTA』に、「コッラード・ヴィーニと人間の知性」(Corrado Vigni e l’intelligenza umana)と題する論文をイタリア語で発表した。論文では、上記二氏等から取材した、文明の進歩と人間の知性の健全性を信奉するヴィーニの人間性を描写し、フィレンツェのホテル・バリオーニの進歩的経営者フランチェスコ・バリオーニとの交友とそのパトロネージ、また同ホテル創立25周年を記念したヴィーニ制作によるメダルの図像《ケレス》を進歩史観的視点から解釈した。また同メダルのテラコッタ・ヴァージョンを含む画家のアトリエを捉えた1928年の歴史的写真と、同メダルの未発表テラコッタ・ヴァージョン(個人蔵)とを公刊し、両者が同一である点を実証した。さらに未発表の石膏像《キリスト磔刑》(個人蔵)を公刊し、同作品が元来北米の墓地のために制作された事実を同時代の新聞記事に基づいて明らかにするとともに、ヴィーニの人間性に基づく読解を試みた。なお論文の執筆は4月から7月にかけて行われ、9月に初校を校正した。またムジェッロ在住の個人コレクターを12月に訪問、作品調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
二回にわたるフィレンツェでの現地調査を実施できた点で、当初の計画通り調査がなされたと判断される。加えて、最終年度である平成25年度に予定していた『ARTISTA』への論文投稿を本年度にすでに実施できた点では、当初の計画以上の進展と考えられる。とはいえ、ヴィーニの公共作品の政治史的・文化史的解読という研究目的からすれば、本論文はそのごく一部を対象としたにすぎず、今後もなお数多くの作品の研究が必須となる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はフィレンツェの専門誌に論文掲載を実現した。とはいえ、ヴィーニの公共作品の政治史的・文化史的解読という当初の計画からすれば、本論文はそのごく一部を対象としたにすぎず、今後さらに数多くの作品の研究が必須となる。具体的には、1920年代から1940年代に至るヴィーニの公共彫刻を編年的に分析したモノグラフの作成が急務となる。そのためにはまだ調査の継続が必要である。例えばシチリア州ラグーザの郵政庁舎を飾る9体の寓意像のうち、植民地の寓意と推測される3体の意味の特定が未解決である。またモンテカティーニ・テルメの4体の寓意像についてもはっきりした文献資料に欠け、さらなる調査が必要となる。上記寓意像およびテルニ大聖堂を飾る聖人像については、個人蔵の石膏習作が数多く現存し、完成作との対応関係についても調査を継続することになる。各作品の制作年代に対応する文化的・政治的事象との関連づけについては、フィレンツェの美術史研究所(Kunsthistorisches Institut in Florenz)およびハーヴァード大学付属ベレンソン研究所(Villa I Tatti)における美術史・歴史文献の調査、フィレンツェ国立中央図書館(Biblioteca Nazionale Centrale di Firenze)における政治史・歴史文献の調査が必要となる。公共彫刻についての調査結果は、順次『五浦論叢』(茨城大学五浦美術文化研究所紀要)に掲載する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度も、夏期および秋期の二回のフィレンツェ滞在を中心に、ヴィーニの作品研究を継続する。従って研究費はフィレンツェへの旅費・滞在費・日当を中心とし、さらに書籍等物品費の購入に充てる。また調査結果を『五浦論叢』(茨城大学五浦美術文化研究所紀要)に発表する場合の、イタリア語要旨の校訂料を謝金として計上する。
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Research Products
(1 results)