2012 Fiscal Year Research-status Report
コッラード・ヴィーニの公共彫刻の政治史的・文化史的解読
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23520116
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
甲斐 教行 茨城大学, 教育学部, 教授 (60323193)
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Keywords | イタリア / 具象彫刻 / ファシズム / フィレンツェ / ラグーサ / ボルツァーノ |
Research Abstract |
当該年度は、特にフィレンツェの彫刻家コッラード・ヴィーニが一九三二年に制作し、現在シチリア州ラグーサの郵政電信庁舎(アンジョロ・マッツォーニ設計、一九三八年落成)を飾る、十一体の彫像(九体の女性寓意像と二体の兵士像)の研究を進展させた。そのため、7月末-9月、12月、3月後半の計三度にわたりイタリアでの実地調査を実施した。まずトレント・ロヴェレート近現代美術館マッツォーニ文庫の中に、マッツォーニ自身が作成したラグーサ郵政電信庁舎を飾る彫像のリストを発見し、従来図像上の解釈に諸説があった、ファサード上の九体の寓意像の意味が、通信手段と五大陸の図像であることを初めて確認した。これらの彫像は当初リグーリア州ラ・スペツィアの郵政電信庁舎に設置されたが、未来派芸術運動の圧力により設置後ほどなく撤去され、ラグーサの庁舎に転用された。そうした歴史的経緯は、フィレンツェの美術史研究所および国立中央図書館に所蔵される研究文献と、同時代の新聞資料の閲覧によって確認された。またヴィーニの彫像群の石膏習作の一部がフィレンツェの二つの個人コレクションに分散所蔵されているほか、トレント・ロヴェレート近現代美術館マッツォーニ文庫にも数点の習作の歴史的写真が保管されている。研究者はヴィーニの彫像群がラ・スペツィアからラグーサに移転した歴史的経緯と、彫像群の正しい図像的解釈およびそれを裏付ける図像史的論拠の提示、各彫像と対応する習作および歴史的写真等の図像資料の初公開を目的とする論文を起草し、『五浦論叢』(茨城大学五浦美術文化研究所紀要)第20号に掲載予定である。考察の結論として、イタリアの帝国主義的拡張という文脈に基づき、最新の「通信手段」への言及とその通信手段が結ぶ世界の「五大陸」、また「兵士」に表象される植民地への進出というファシズム期の理念の中に、彫像群の歴史的・政治的機能を位置づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コッラード・ヴィーニの公共彫刻の政治史的・文化史的解読をめざした本研究課題において、すでにサバウディアの教区聖堂内に安置される《お告げの聖母》像(1935年)、ボルツァーノの全国社会保障機構会館ファサードを飾る浮彫《統帥讃歌》(1935-37年)、ラグーサ郵政電信庁舎を飾る九体の女性寓意像と二体の兵士像(1932年)、フィレンツェのホテル・バリオーニ創建二十五周年記念メダル(1928年)、北米の墓地のための《キリスト磔刑》(1932年)といった作品の図像的・文化史的・政治史的解釈を三編の論文として発表もしくは発表準備中である。特に、その中の一編はフィレンツェの美術史専門誌『アルティスタ』に掲載した。また上記作品の未発見の習作を初めて公開することができた。以上のことからも、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は現在準備中のラグーサ郵政電信庁舎寓意像についての論文を『五浦論叢』(茨城大学五浦美術文化研究所紀要)第20号に発表するための最終調整をおこなう。 また本年度より、図像上の曖昧さが残るモンテカティーニ・テルメの四体の女性寓意像、カステルフランコ・ディ・ソットの戦没者慰霊碑、テルニ大聖堂ファサードを飾る聖人像、といった作品への本格的な調査を開始する。 そのため本年度も、昨年度、一昨年度同様、7月-9月、12月、3月の三度にわたるイタリアでの実地調査を予定している。フィレンツェ国立中央図書館、美術史研究所、トレント・ロヴェレート近現代美術館等における文献調査、フィレンツェの個人コレクションの再調査は今回も実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
イタリアでの実地調査、特に夏期のフィレンツェへの旅費・滞在費・日当を中心とし、さらに書籍等物品費の購入に充てる。また調査結果を『五浦論叢』(茨城大学五浦美術文化研究所紀要)等に発表する場合の、イタリア語要旨の校訂料を謝金として計上する。
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