2011 Fiscal Year Research-status Report
13世紀イギリスにおける聖顔信仰の成立と展開:イメージと宗教的実践に関する研究
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23520119
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
木俣 元一 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (00195348)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 聖顔 / ヴェロニカ / イギリス / 13世紀 / ヨハネ黙示録 / 詩編 / ゴシック / キリスト教 |
Research Abstract |
平成23年度は、主として以下のような成果を挙げた。12世紀末から13世紀初頭にかけて、主として教皇インノケンティウス3世のもとでヴェロニカ信仰が推進されたという従来の学説を、その根拠に遡り再度詳細に検討した。1240年代に聖顔が挿入された詩編集や『大年代記』をはじめ、セント・オールバンス大修道院写本制作工房におけるマシュー・パリス周辺での状況を中心に、11世紀から13世紀前半にかけてのイギリスの写本装飾・礼拝用テクストを対象として、ヴェロニカのコピーとされる図像が参照した源泉や、祈祷文の構成要素となったテクストが由来する固有のコンテクストを、とくに聖餐の秘跡や「三位一体」との関連で明らかにした。プリンストン大学Index of Christian Artなどのキリスト教図像データベース、フランス国立図書館写本室等での調査を通じ、12世紀末から13世紀末にかけてのイギリスおよびフランス北部で流通した「三位一体」図像を、とくに詩編109編のイニシアル装飾・挿絵に関して収集・整理し、基礎的資料の作成を進めた。13世紀中期にイギリスを中心として制作された『ヨハネ黙示録』写本において、聖顔と関連する図像およびテクストの収集を進めた。『グルベンキアン黙示録』の挿絵の考察:神の僕の召命とユダヤ教徒の排斥をテーマとする挿絵に描かれたヴェロニカに関する考察を発展させ、当時聖顔が担った信仰上の機能について考察を進めた。11世紀から12世紀末に至る詩編註解に多数みられる「神の顔」に関する註解の収集・整理を進め、父の不可視性、父と子の相同性や派生関係、子の受肉、終末における神との「顔と顔を合わせて」の対面といったテーマを通じた聖顔信仰との関連性について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度に予定していた課題はほとんど実施に移すことができ、研究成果も論文やシンポジウムでの発表などで行うことができた。ただし、フランスの図書館や美術館での調査が中心となってしまったため、イギリスの図書館で予定した写本の調査が次年度以降の課題となっているという状況がある。以上のような理由から上記のような達成度を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、12世紀末から13世紀中期にかけての西欧における聖顔(ヴェロニカ)信仰の諸様相を詳細に跡づけ、その成立および展開の状況や過程を当時のイギリスで流通していた図像やテクストを通じて緻密に再構成する。また、なぜイギリスで発展したのか、それがどのような意義を担っていたのか、当時の歴史的背景として終末論に関わる思想や、アングロ=サクソン以降の地域的伝統との関連で説明しようと試みる。さらに、これらのヴェロニカのイメージが位置づけられる個人的祈念における宗教的実践の諸様態を明らかにすることをめざす。西方キリスト教世界における聖顔(ヴェロニカ)信仰が、従来の考え方とは異なり、12世紀末から教皇庁を中心に推進されたのではなく、13世紀中期のイギリスで独自に成立・発展したことを確証し、その諸様相を、以下の5点を軸に考察することで、西方におけるイメージ礼拝の歴史に位置づける。(1)聖顔図像と祈祷文の成立過程、(2)11世紀アングロ=サクソン期の思想や美術の伝統に基づく、「三位一体」を核とするキリスト教正統の信仰表明との関連、(3)聖顔信仰と様々なコンテクストを共有し、同時期にイギリスで多数制作された『ヨハネ黙示録』写本との関連、(4)詩編写本の使用様態や詩編註解における「神の顔」に関する神学思想との関係、(5)世俗の「読者=観者」の成立による個人的祈念の展開における位置。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度には、以下のような項目を実施する。聖顔を含む写本リストに基づき、海外の図書館で現地調査を進める。プリンストン大学Index of Christian Artなどのキリスト教図像データベース、フランス国立図書館写本室等での調査を通じ、12世紀末から13世紀末にかけてのイギリスおよびフランス北部で流通した「三位一体」図像を、とくに詩編109編のイニシアル装飾・挿絵に関して収集・整理し、基礎的資料の作成を終える。上記の項目の実施と並行して、父の不可視性、父と子の相同性や派生関係、子の受肉、終末における神との「顔と顔を合わせて」の対面といったテーマを中心として、聖顔信仰との関連性について考察を進め、研究論文としてまとめて研究成果を公表する。13世紀中期イギリスにおける聖顔信仰と11世紀の同地域におけるキリスト教正統の信仰表明との関連性に関して、とくに「三位一体」に関わる図像や思想に基づく考察を進める。13世紀中期以降イギリスで制作された『ヨハネ黙示録』写本に関して、とくにヨハネによる神の顔の幻視と関連する主題の図像表現を中心に聖顔信仰の関連性について考察を進める。J.-P. Migne, Patrologia latinaなど、キリスト教教父学関係のテクスト・データベースを用いて、11世紀から12世紀末に至る詩編註解に多数みられる「神の顔」に関する註解の収集・整理を進め、父の不可視性、父と子の相同性や派生関係、子の受肉、終末における神との「顔と顔を合わせて」の対面といったテーマを通じた聖顔信仰との関連性についての考察をさらに進める。写本をプライヴェートな状況で前にした世俗の「読者=観者」という新しい受容者の登場、個人的祈念という文脈における詩編集・黙示録写本の使用様態とイメージとテクストの関係から聖顔信仰について考察を開始する。
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Research Products
(4 results)