2011 Fiscal Year Research-status Report
無定形なセルフポートレート:クロード・カーンを中心に
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23520122
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
長野 順子 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (20172546)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | セルフポートレート / ジェンダー / フォトモンタージュ / 人形 / シュルレアリスム |
Research Abstract |
(1)クロード・カーンClaude Cahnの短編集『ヒロインたち』と自伝的エッセー『無効の告白』の読解と分析を進めた。これらの作品は部分的に英訳され、日本語でも断片的な翻訳があるのみであり、重要な作業である。また後者における各章冒頭のフォトモンタージュの素材となった写真を同定する作業を行った。(2)カーン及びシュルレアリスム全体における人形・仮面(や機械)の使用の淵源と見なすべき18・19世紀フランスの自動人形(automaton)及び動く彫像(ピュグマリオン神話)への思想的・芸術的関心―とくに「人間機械論」やオペラ《ホフマン物語》の眼球や人形の表現等―の足跡を辿った。(3)女性アーティストのセルフポートレートに関して、伝統的な女性画家の自画像(ex. L.Fontana, A.Gentileschi, J.Leyster, A.Kaufmann)に遡って比較検討した。彼女らの多くは画家の父をもち、作品は長く父や師のものとされていたが、その自画像には絵を描くだけでなく音楽を奏する姿が共通して見られ、一ジャンルに収まらない能力への自負が表されている。(4)昨年12月に神戸大学文学部芸術学研究室にてパフォーマンス・アーティストJeremy McHugh氏による講演とワークショップを開催し、彼の師でポストモダンダンスの先駆者Anna Halprinの「芸術と生」一体化の思想による身体的な「自己イメージ」の深化について研究交流を行った。(5)パリにおけるカーンの芸術活動とシュルレアリスムによる影響関係について現地調査を行った。2011年Jeu de Paume美術館で開催されたクロード・カーン展はカーンへのアクティヴな関心を示すものであった。また同美術館での女性写真家Berenice Abbott展も20世紀前半の女性アーティストたちの発掘に繋がるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)カーンの独特な文体を解読し、また文学的な伝統を背景にもちつつそれを脱構築する彼女の独自の手法を浮き彫りにする必要性が明らかになった。(2)近代社会の機械化・工業化における人間自身の単なる自動人形化という事態を越えた次元での人間身体のあり方や人間とメディアの関係への新たな視野が獲得できた。(3)過去の女性作家の自画像との比較により、現代の女性アーティストのセルフポートレートの独自性及びその逸脱の様相がより明確になってきた。(4)芸術と日常的な生の間で(また各芸術ジャンル間)の境界横断的な活動はすでにカーンにおいて顕著であったが、現代のパフォーマンスアートや身体技法における同様な動向が確認できた。(5)21世紀初頭より目立ってきた女性アーティストの系譜(共通性と個人的差異)への関心や大規模な回顧展等によって、彼女たちに特有のセルフポートレートに関する本研究の意義が再確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
クロード・カーンのジャンル横断的な活動を総括的に捉える作業と、カーンと他の作家たちとの影響関係の検証を軸に研究を進める。まず前年度に引き続きクロード・カーンの仕事を、その文筆による先進的な実験、セルフポートレート写真でのパフォーマンス性、フォトモンタージュにおける身体の断片化と結合の手法、それらに見られる人格の同一性や作品の唯一性という観念の揺らぎについて、彼女の著作、詩作品、雑誌や新聞への寄稿文、手稿、写真作品、モンタージュやオブジェ作品を詳細に分析しながら、考察する。とくにセルフポートレート写真については時期ごとに分類し、その異性装やパフォーマンス性、鏡や二重露光による折り返しや逆転という戦略、仮面や人形を用いた身体感覚の異化等の問題を浮き彫りにしていく。またカーンと他の作家たちとの関係の検証、及び彼らの仕事との比較や対比という作業を行ったうえで、彼女と同時代の主流シュルレアリスムとの関連に加えて、現代の女性アーティストたちの先駆者としての彼女の位置づけについても詳しく調査・研究する。さらに、カーンの仕事を引き継ぐ女性アーティストたちの活動を(1)1930年代~40年代、(2)60年代~70年代、(3)90年代~21世紀と大きく三つの時期に分けて、過去の女性作家の自画像とは決定的に異なりステレオタイプ的な女性像や芸術家像から逸脱した「自我」像、多層的・分裂的な身体イメージを追究する20世紀以降のセルフポートレートについて検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
カーン関連の文献だけでなく、20世紀以降の女性アーティストの仕事とくにセルフポートレートに関わるカタログや研究書および、ジェンダー論関連の研究書を収集する。昨年度は交通機関の事情により適わなかったが、カーンがパートナーのムーア(イラストレーター)とともに1937年にパリから移住した英国領ジャージー島に行き、彼女たちの作品が収集されてはいるがまだ整理途上にあるアーカイヴ(Jersey Heritage Trust: Cahun and Moore collection)を詳しく調査する。そのために携帯用のノートPC(およびデジタルカメラ)を購入する。フランス語の原資料の整理および翻訳のために人件費・謝金が必要となる。
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Research Products
(2 results)