2011 Fiscal Year Research-status Report
近世前半の宮廷サロンにおける絵画制作と和歌の役割――屏風絵と寄合画帖を中心に――
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23520132
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Research Institution | Musashino Art University |
Principal Investigator |
玉蟲 敏子 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (10339541)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 書画藝術 / 和歌の政治性 / 朝幕関係 / 共同制作 |
Research Abstract |
平成23年度は、研究協力者の三戸信恵の原案のもとに3年間を通じて調査を進める対象作品のリストを作成し、それに基づいて調査計画を立てた。23年度は以下の基本的な作品4点を調査した。(1)静嘉堂文庫美術館蔵「時代不同歌合」(住吉具慶、狩野秀信画、二帖)(2)東京国立博物館蔵「新三十六歌仙画帖」(狩野探幽画、二帖)(3)同蔵「徒然草画帖」(住吉具慶画、一帖)(4)個人蔵「百人一首画帖」(狩野探幽ほか画、二帖)いずれも重厚かつ大部な画帖で付属品も完備されている。実物調査によって伝来や書の筆者の目録など多くの情報を知ることができた。調査は研究協力者の前記、三戸のほか、野口剛、五十嵐公一と共同で行い、問題点を共有するための研究会を二回実施した。調査によって、書画ともに量が多く、複数制作者の参加が予想される寄合画帖の特性を十分に把握することができた。たとえば、署名・印章は一者であっても絵師の個人差が認められ、複数の絵師の参加する共同制作であるを確認することができたのは収穫であった。また、近い制作環境の画帖を集中的に調査した結果、付属品として添付される目録類に書かれた書の筆者名の確実性をめぐって、後水尾院、霊元院周辺の堂上貴族の確実な書跡目録を作成するためにはさまざまな問題が内在していることが判明し、新たな課題が浮上した。従来の図録類では書画の全貌が紹介されることが稀なため、和歌の書かれた料紙装飾の重要性についてはさほど認識されていなかったが、今回の調査品目に中国・明末の木版摺り料紙も金銀装飾と併せて用いられていることが判明した。これはこれまで指摘されてこなかった新事実であり、近世前半の美術史の動向の見直しに繋がる可能性をもった発見と言える。研究協力者の五十嵐は関連分野で新資料を紹介し、研究代表者の玉蟲も著作を刊行し、書と画のおりなすこのような作品領域への美術史学からのアプローチの重要性を訴えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時に記した23年度の計画のうち、以下についてはほぼ達成することができた。(1)先行研究の整理と出発点となる対象作品リストの作成・検討、(2)上記リストをもとに新情報の収集、(3)基準的作品の実物調査と研究(国内)「時代不同歌合画帖」(静嘉堂文庫美術館)「百人一首画帖」(個人)、(4)調査・研究経過を研究代表者、協力者による定例研究会報告し、情報の共有を図る。しかしながら、上記品目の調査許可を得るために多くの時間を費やしたため、当初予定していた屏風絵の調査や海外調査については次年度に持ち越すことになった。その理由をもって自己点検評価としてはおおむね順調に進展とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究は以下の方向で進める。(1)23年度の研究の達成度の項目に列挙した、書画双方における複数筆者、作者の参加の問題、料紙装飾における新渡唐紙の意匠の受容の問題などについてさらに調査研究を進める。特に新たに浮上した後者の明末唐紙の将来の問題については関連資料の発掘に努め、さらに調査対象に加える。(2)23年度に果たせなかった屏風関係の調査研究を前進させる。国内においては、調査予定品目は明正院七十賀月次図屏風、狩野永敬筆月次図屏風など。(3)海外調査としてはアメリカを中心に、イエール大学美術館、山本素軒筆「十二か月和歌花鳥図屏風」、ミシガン大学美術館、狩野探幽筆「十二か月和歌花鳥図屏風」、サンフランシスコ・アジア美術館、山本素軒筆「十二か月和歌花鳥図屏風」等を予定。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の研究計画推進のため24年度の研究費は以下のように割り当てる。(1)写真、コピー、関連資料、資料整理のための小型パソコン購入のための物品費。(2)研究協力者3名と代表者の代表者の国内および海外調査旅費。(3)調査済み研究品目の写真整理、調査対象作品の情報・資料蒐集、有識者の知識の貸与などのための人件費・謝金。(4)定例研究会のための会議費・通信費。
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Research Products
(6 results)