2012 Fiscal Year Research-status Report
近世前半の宮廷サロンにおける絵画制作と和歌の役割――屏風絵と寄合画帖を中心に――
Project/Area Number |
23520132
|
Research Institution | Musashino Art University |
Principal Investigator |
玉蟲 敏子 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (10339541)
|
Keywords | 書画藝術 / 和歌の政治性 / 朝幕関係 / 共同制作 |
Research Abstract |
平成24年度の前半は、前年度に精力的に遂行した研究資料の整理を行った。とくに所蔵者の許可を取るのが難しい個人蔵の「百人一首画帖」(二帖)について、学生アルバイトを動員して全頁をプリントアウトし、研究しやすい環境を整備した。また、同様に静嘉堂文庫美術館蔵「時代不同歌合」についても書写された和歌を翻刻整理した。その作業上、漢字仮名交り文が基本形ながら、ときに万葉仮名が挿入されていることを確認し、あまり問題化されていない近世前半期における万葉仮名使用について、検討すべき課題があることを発見した。 平成24年度後半は、前年度に調査した画帖類と同時代の制作にかかる俵屋宗達工房の「扇面散屏風」(東京国立博物館)に添付された全60面の扇面の調査・撮影・研究成果の公表などを行った(但し、刊行は25年4月なので次年度に報告)。撮影は全扇面を高精細ディジタル画像で撮り、それをもとに調査においては各図の造形上の特徴、図様の典拠などを精密に探求し、成果は国民に発信する媒体であるが、研究協力者とともに『聚美7特集 俵屋宗達』(青月社)として公表した。 前年度の調査でも問題となった「百人一首画帖」における中国・明末の木版刷り料紙の使用に関して、宗達派の扇面にも認められる中国・明末の挿図入り版本の活発な使用とも共通する課題であり、研究協力者の五十嵐公一の検討によって、近世前半期の公家社会にも中国・明代絵本への関心が高まっていることが明らかとなった。流入のルートとしても、角倉素庵ら京都の豪商の資料に中国絵本への言及があり、公家や商人の活動を背景として考慮すれば、新しい様式の料紙が用いられていった理由が明らかになっていくだろう。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請時に記した研究計画のうち、画帖類の調査は継続して進めているが、研究代表者の家族の病気疾患のため、屏風絵に関しては東京に所在するものに限定して着手することになり、関西や海外所在のものは、平成25年度の調査への持ち越しとなった。宮廷における画帖制作の意図や背景となる公家ネットワークの研究に関しては、研究協力者の五十嵐公一の目覚ましい成果によって、かなりの彫りこみが進んでいる。 以上の理由をもって自己評価としては、やや遅れているとした。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に果たせなかった屏風関係の調査研究を前進させる。国内においては、調査予定品目は明正院七十賀月次図屏風、狩野永敬筆月次図屏風など。海外調査としてはアメリカを中心に、イエール大学美術館、山本素軒筆「十二か月和歌花鳥図屏風」、ミシガン大学美術館、狩野探幽筆「十二か月和歌花鳥図屏風」、サンフランシスコ・アジア美術館、山本素軒筆「十二か月和歌花鳥図屏風」等を予定。 経費の残り具合を見て、3年間の研究成果の公表として研究集会(シンポジウム)などを計画。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の研究計画推進のため25年度の研究費は以下のように割り当てる。 ①写真、コピー、関連資料、資料整理のための小型パソコン購入のための物品費。 ②研究協力者3名と代表者の代表者の国内および海外調査旅費。 ③調査済み研究品目の写真整理、調査対象作品の情報・資料蒐集、有識者の知識の貸与などのための人件費・謝金。④定例研究会のための会議費・通信費。⑤研究集会の設営のための設営費、出版物などの作成。
|
Research Products
(10 results)