2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23520134
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
前田 富士男 中部大学, 人文学部, 教授 (90118836)
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Keywords | パウル・クレー / 近代絵画 / 心理学 / 触覚 / ハプティク / ゲーテ / ドイツ / 芸術学 |
Research Abstract |
本年度は、従来の成果を踏まえつつ、とくに19世紀半ばからクレーの時代にかけてドイツで大きく発展した実験的「生理心理学(physiologische Psychologie)」研究を進めた。ヴェーバーやヴントの厖大で基礎的な研究成果は、今日では、認知心理学や精神分析の立場からほとんど前近代的な業績として無視されがちだが、実は現代的な視点から把握しても、先駆的な内容にみちている。なぜなら、現代では視覚や聴覚などの特殊感覚系に研究関心が集中しているが、これらの研究者たちが取り組んだ触覚や内触覚(Haptik)の問題は、人間の知覚あるいは想像(イメージ)、芸術的創作活動にとりきわめて本質的な知見を提示しているからだ。 クレーをはじめとする芸術家、また同時代のリーグルやヴェルフリンなどの美術史学者はそれぞれの領域で、前衛的な絵画制作また芸術学の近代的基礎付けを開拓しつつあったが、その仕事に大きく貢献したのは「生理心理学」の感覚論であった。この点は世界的な研究水準にてらしても、まだ明確に論じられていない。そこで、筆者は2013年11月、「ゲーテ自然科学の集い」総会の際にシンポジウムを組織し、九州大学大学院教授三浦佳代氏(感情心理学)を迎え、現代の知覚研究と生理心理学、内触覚の問題を討議し、大きな反響をえた。さらに京都ノートルダム女子大学教授古賀一男氏(生理心理学)、中部大学教授松井孝雄氏(認知心理学)らの研究に注目し、助言・指導をいただきつつ主客定立・観察・経験的知覚・視覚にもとづく「絵画的ミメーシス」に対して、主客浸透・制作・予感的知覚・内触覚にもとづく「彫刻的シミュラークル」という芸術学的制作論の分極性理論を提示した。この研究成果は、本科研助成の単行報告書として年度末に前田研究室より上梓した。 他方で、クレーの研究アーカイヴ作業としてわが国初の研究資料集成も、年度末に出版した。
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Research Products
(7 results)