2011 Fiscal Year Research-status Report
海軍軍楽長・吉本光蔵日記の研究―20世紀初頭の日欧間における音楽情報交流
Project/Area Number |
23520158
|
Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
塚原 康子 東京芸術大学, 音楽学部, 教授 (60202181)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 軍楽隊 / 日本音楽 / 留学生 / ベルリン音楽院 |
Research Abstract |
平成23年度は、吉本光蔵(1863~1908)のベルリン留学中の日記2冊の購読を終了し、翻刻については1900年分を完了した。残りは引き続き次年度も作業を行う。日記記事の裏付けをとるため、2011年8月連携研究者の平高典子氏とともにパリとベルリンで調査を実施し、現地でしか得られない貴重な資料を調査収集するとともに、吉本の居住地と新旧ベルリン音楽院の所在地などを確認した。調査結果は、後述する紀要論文に反映させた。 なお、交付申請時には存在を把握していなかった吉本光蔵のドイツ語日記(1902年分)が東京藝術大学大学史史料室に寄贈されたため、写真撮影と活字化作業を専門家に依頼し、日本語日記の記述を補完するものであることを確認した。 おもにベルリン留学時代の日本語日記から、ベルリン在住の日本人(比留間賢八・幸田幸・滝廉太郎らの音楽関係者、軍関係者を含む)やドイツ人(エッケルト一家、ベルリン音楽院関係者、踏舞会会員)との交友関係、ベルリンでの音楽生活(演奏活動、コンサートやオペラの鑑賞)の状況がわかり、軍楽学生を有するベルリン音楽院の軍楽教育が吉本の帰国後に進められた海軍軍楽隊の東京音楽学校への依託生派遣制度に影響したと思われることが明らかになった。また、1900年パリ万博への視察旅行、1901年の日本人によるベルリン興行(烏森芸妓一行、川上音二郎一座)およびベルリン大学のカール・シュトゥンプフ、エーリッヒ・フォン・ホルンボステルとの接触から、当時のヨーロッパで、現地での興行だけでなく吉本が持参した五線譜を通じても日本音楽の情報が流布し、音楽上のジャポニズム現象を呈していたことが確認された。 以上の研究成果を『東京藝術大学音楽学部紀要』第37集に連名でまとめたほか、2011年11月の北京・中央音楽学院「世界音楽週」でのレクチャーでも一部を発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
吉本のベルリン留学中の日記2冊について、購読は終了したが翻刻は1900年分が完了したにとどまり、1901年・1902年分については引き続き次年度も翻刻作業を継続する必要がある。その一方で、交付申請時に把握していなかったドイツ語日記が本学に寄贈されたことから、これを調査して内容を確認し、購読する上で必要な写真撮影等の作業を行い、専門家に依頼して翻刻を終えた。 パリ・ベルリンでの調査を予定通り実施し、日本語日記の内容に現地での調査で得られた成果を盛り込んだ研究論文を平高氏と共同で執筆し、紀要論文にまとめた。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、ベルリン留学時代の日本語日記の翻刻を行うとともに、ドイツ語日記を翻訳し内容把握に務め、両者を付き合わせる。帰国後の日記についても購読と翻刻を進捗させる。 まだ見つかっていない吉本による俗曲の五線譜(明治20年ごろ海軍蔵版として印刷刊行したとの瀬戸口藤吉による証言あり)の探索をひきつづき行う。 研究成果を国内の学会で発表する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ドイツ語日記の翻訳を依頼し(謝金を使用)、日本語日記の購読と翻刻を進める(謝金を使用)。日記の内容把握や追跡調査に必要な文献を購入する(物品費を使用)。 研究成果の発表のために国内旅費を使用する。
|
Research Products
(2 results)