2011 Fiscal Year Research-status Report
パラオにおける日本語歌謡の収集と分析―民族音楽学的・言語学的観点から―
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23520163
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
小西 潤子 静岡大学, 教育学部, 教授 (70332690)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
DANIEL Long 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (00247884)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / 台湾:パラオ |
Research Abstract |
戦前、日本植民地下にあった旧南洋群島において、現地の人々が日本の音楽を受容しそれを発展させた日本語歌謡を創作した。なかでも、パラオは日本語歌謡の集積・発信地となったが、継承者の高齢化が進んでいる。本研究では、研究代表者が主体となり研究分担者の協力の下でフィールドワークを行い、パラオの日本語歌謡の収集を行う。そして、研究代表者による民族音楽学的な観点からの音楽面およびその文化的脈絡に関する分析、研究分担者による言語学的な観点からの歌詞分析を共同調査研究によって総合的に分析する。これにより、日本語歌謡成立から伝承にいたるまでの経緯とその音楽的・言語的特徴を総合的に明らかにすることを目的とする。 本年度においては、パラオの日本語歌謡について既存資料の収集と整理、研究代表者・分担者によるパラオでのフィールド調査での録音・録画による収集、書留資料の整理と採譜およびこれらの電子ファイル化を以下の手順によって行った。まず、研究代表者・分担者が既存の日本語歌謡および関連資料に関する情報収集を行った。これを中間報告として、日本音楽表現学会で口頭発表した。さらに、パラオのコロール地区において共同調査を行い、1)1980年代のカセットテープ録音資料およびそれをWWFMにおいてCD化した音源資料、2)前・高齢者福祉事務局長リリアン・ウルドン氏が施設で収集した歌詞を編集・出版した歌詞集(全180ページ)を収集した。また、日本語歌謡の伝承と普及活動を行っている個人や団体への聞き取りやデモンストレーションの録音によって、情報収集をした。そして、収集した資料の編集、複製作り、電子ファイル化、データベース作りに着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
パラオの日本語歌謡については、予想以上に多くの既存資料を得ることができた。また、共同調査においては、高齢化が進んでいる日本語歌謡伝承者団体であるフライデーナイトクラブへの貴重なインタビューができたこと、パラオ語と日本語の書留めもできる金城フミ子氏の協力により得られた歌詞の解説・翻訳によって、その歌詞の傾向と特徴が明らかになったこと、パラオ・コミュニティ・カレッジのハワード・チャールズ氏の協力により、アルコロン地区の女性グループへのインタビューとデモンストレーションの録音、録画による資料収集ができたことは、予想以上の収穫であった。さらに、文化庁長官フォウスティナ・レフフェル氏の賛同を得て、平成24年度にパラオ・コミュニティ・カレッジで日本語歌謡に関するシンポジウムを開催できる見通しが立った点も評価できる。また、シンポジウムには1960年代にパラオで音楽調査を行った山口修氏、その資料をデジタル化している銭善華氏がそれぞれ台湾から参加する意向を示している。 一方、収集した資料が予想以上に多かったことにより、その分類とデータベースについては、まだ網羅的な段階にまで到達していない。その一つの理由が、分類をする段階で現地の人々や関係者の声を反映させるべきだと考え至ったことである。 以上を勘案し、全体としてはおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度においては、引き続いての資料整理を行う。また、分類と分析を行うにあたって現日の人々や関係者の声を反映させるために、当初は平成25年度に予定していた国際シンポジウムを前倒しすることにした。シンポジウムはパラオのコロールにて、パラオ・コミュニティ・カレッジとパラオ文化庁の協力を得て実施する。発表者は研究申請者、研究分担者、パラオ・コミュニティ・カレッジのハワード・チャールズ氏およびその学生を主たる参加者とし、1970年代にパラオ音楽民族分類法を開発した山口修氏と台湾師範大学で山口氏のデータを含むデジタル・アーカイヴを推進している銭善華氏を台湾より招へいし、コメンテーターとする。 シンポジウムの成果を踏まえたうえで、フィールド調査による補足資料収集、民族音楽学的・言語学的観点からの総合的分析を以下の手順によって行う。すなわち、資料の編集、複製作り、電子ファイル化と並行して、データベース作りを行う。また、音楽資料に関しては採譜、歌詞の書留資料については電子ファイル化を同様に実施する。 以上をもとに、民族音楽学的観点から、パラオの日本語歌謡について楽曲分析による音楽的特徴を明らかにするとともに文化的・社会的特徴を抽出する。また、言語学的観点から日本語歌謡の歌詞について、単語の種類、使用頻度、単語相互間の連関性、文法的・文脈的特徴を明らかにする。そのうえで、総合的に分析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の大きな事業としては、日本人研究協力者、現地関係者を交えたシンポジウム、学会での発表とディスカッションを実施することである。これらによって、外部者からの意見を取り入れた分類、分析方法の開発を行う。また、資料収集と分析に基づく調査内容を多角的な視点から吟味することで、研究者の偏見による結果に留まらないものとする。参加者は、研究申請者と分担者および研究補助者を日本から、山口修氏と銭善華氏を台湾から、それぞれパラオに招へいする。研究補助者を同行するのは、シンポジウムにおいて資料整理と分類の手法に関する知見を直接得るためであり、研究を円滑に進めるために不可欠だと考えるからである。
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Research Products
(5 results)