2012 Fiscal Year Research-status Report
音律研究ーバッハ「平均律クラヴィーア曲集」をめぐる音律論争の解決に向けて
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23520172
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
岸 啓子 愛媛大学, 教育学部, 教授 (40036489)
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Keywords | J.S.バッハ / 古典音律 / バッハ音律 / チェンバロ演奏 / 平均律クラヴィーア曲集I |
Research Abstract |
今年度は23年度に購入したチェンバロ(イタリアン一段鍵盤)を活用し演奏研究を行った。 音律研究については、実際にバッハ音律およびそれ以外の古典音律によってチェンバロを調律し、そのチェンバロを演奏するという実践的研究を中心に本年度は実施した。研究室での演奏はもとより、演奏会において独奏及びアンサンブルを行い、バッハ音律の音楽的効果をその他の古典音律との比較の中で確かめた。 その結果独奏においてバッハ音律は通常の古典音律と同等またはそれ以上の演奏効果を得ることができることを確認し、古典音律の一つとして市民権を得るべきであること、『平均律クラヴィア曲集第1巻』に適用されるべくその表紙に記されていたとはいえ、『イタリア協奏曲』のような他の作品にも十分適用できることを確認した。 ヴァイオリンとのアンサンブルにおいても調和的な音律であることが演奏を通して確認できた。しかし、実際の演奏会において、特に平均律に近い高めの3度音程を好み、しかも鍵盤楽器のようにあらかじめ調律の必要がなく、その都度音程を形成してゆくヴァイオリン(モダン)とのアンサンブルでは、調や和音によって微妙に色彩感の異なるバッハ音律のデリケートな効果を十分に感じ取れない場面も多々あり、モダン楽器とのアンサンブルではバッハ音律の特徴や良さが現れにくいこともわかった。演奏体験から、モダンヴァイオリンとはむしろバッハ音律より時代の下るヤング音律の方が調律の簡便さと平均律寄りの性格を持つ点で合わせやすいことが明らかになった。 またイタリアのコレッリ、ヴィヴァルディ等のヴァイオリン曲においても、バッハ音律は特に違和感もなく調和的であることが判明したものの、これらの音楽には殊更に用いる必然的理由もない音律でもあることが改めて確認できた。修理の必要だったカワイのチェンバロは久保田工房久保田彰氏の手によって蘇った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.24年度は演奏中心に研究をすすめる計画であり、計画に基づき6月に美術館コンサートをヴァイオリンとともに4回実施した。 2.9月には愛媛大学プロムナードコンサートで同じくヴァイオリンと共同でバロック音楽コンサートを実施した。 3.12月にもヴァイオリンとともにバロック音楽を中心にコンサートを実施した。 4.これらのコンサートおよびその準備研究の段階で、23年度に科研費で購入したチェンバロを主に使用し、バッハ音律または古典音律(ヤング音律)に調律して、その音楽的特徴を確認した。以上の研究及び成果発表に加え、バッハ音律の各調の響きの特色と平均律各曲の作曲法の関連について継続して理論的研究を行っている。 5.ピカルディ終止についてはバッハの平均律における終止を確認し、唸りのみが原因ではなく音楽的習慣にもよるとした昨年の結果を踏まえ、中部ドイツを中心に同時代人のピカルディ終止の使用状況とその諸相を探求したい。
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Strategy for Future Research Activity |
音律の特色と楽曲の作曲法の関連についての分析的研究をさらに進めるとともに、バッハ音律または以外の音律で、バッハを中心にバロック時代の鍵盤曲の演奏を行い、音律による演奏表現の違いを比較検討する。 バッハの『平均律クラヴィーア曲集I』について、バッハが表紙に記した音律図が最適であるとともに、それがどの程度念頭に置かれていたかを諸状況から総合的に考究し、『平均律』という訳語の適否を判定する。 ピカルディ終止については、理論的考察を深め、短3度音程(短3和音)の唸りゆえに終結の長音符への使用が忌避されたとする申請者の仮説を、理論的、実践的に検証してゆく。その際、楽器音(チェンバロを想定)の短3度音程の快適さ、唸りの程度について、アンケート調査も合わせて行い、数字に現れた調和度(協和度)と現代人が耳で感じる調和感覚(協和感)の相関関係についても検討したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
音律の理論的研究及びピカルディ終止研究のため、バッハと同時代の他の作曲家の作品研究を行う。多くの楽譜資料を持つ国立音楽大学、東京芸術大学の図書館は楽譜の貸出を一切行っていないので、一定期間東京に滞在し、図書館に通いながら研究を進める必要がある。 また学会での成果発表のため出張する。
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Research Products
(4 results)