2013 Fiscal Year Annual Research Report
音律研究ーバッハ「平均律クラヴィーア曲集」をめぐる音律論争の解決に向けて
Project/Area Number |
23520172
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
岸 啓子 愛媛大学, 教育学部, 教授 (40036489)
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Keywords | 音律 / 和音 / バッハ音律 / チェンバロ / 平均律クラヴィア曲集 |
Research Abstract |
第1年度のバッハ=レーマン音律を中心とする古典音律の理論研究、第2年度の古典音律で調律したチェンバロをを含むアンサンブルの演奏実践研究を踏まえ、最終年度の25年度は、①理論研究と実践研究の総合、②実践(演奏)を踏まえた理論の洗練、③バッハ音律の意味と効果の解明の3点を目的として研究を進めた。 ①②の成果と意味については、研究成果の一般への普及を阻む現実も認めざるを得なかった。古典音律であるヴァロッティ=ヤング6分の1で調律したチェンバロを、調律については何も告げずに被験者10名に演奏してもらい、その後演奏と楽器の響き方についての自由なコメントを求める実験を行なった。結果は、チェンバロの響きとタッチについては好評価であったが、音律についての言及は皆無で、鍵盤音楽を聴くにあたり「音律」が聞く対象から除外されている事実が明らかになった。代表的鍵盤楽器がピアノで、調律は調律師の仕事として演奏とは一線を画され、音律が聴取や演奏批評の対象として意識されない現代の音楽のあり方を反映していると言える。バッハの時代には存在していた音律即音楽の一部という聴取法自体が喪われている実態が明らかとなった。 ③は上の状況を考慮して研究方向を音律全般から音律中の和音に焦点化し、和音構成音の倍音どうしの響きの調和に重点を置いて考察を進めた。バッハの「平均律クラヴィーア曲集I」の終結音は、長調のプレリュードとフーガではそれぞれ長3和音であり、短調においても終結和音は短3和音ではなく、すべて長3和音となっている。これについて、短3和音では、根音と第3音の低次倍音が半音どうしとなり、唸りを生じるためにこれを回避する意味があったと結論づけた。バッハにおいて和音の美しさは、倍音の調和までを含めた響きとしての判断であったことを明らかにした。
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