2011 Fiscal Year Research-status Report
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23520186
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
乾 淑子 東海大学, 国際文化学部, 教授 (40183008)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | プロパガンダ |
Research Abstract |
本研究は一般に公刊されている資料・文献などが著しく少ないため、まず関係資料の作成が不可欠である。よって、資料となる物品(着物・装身具など)を見つけて購入することが第一の仕事であり、それは順調に継続実施中である。 また着物の文様として描かれている兵器の年式・機能・普及の実態などについての専門知識を小田原芳明氏からご教授願い、資料に正確を期した。 当該研究は単なる戦争に関する図像を問題とするのでなく、それが着物という媒体の上に表現されていることが重要であるので、明治から昭和20年までの着物全般に関する調査・研究も怠りないよう努めている。 更に、当該研究に関連する周辺資料を大規模に収集する北九州市立博物館およびその資料を寄贈した堀切氏に関する調査・研究を行い、その記録をDVDに保存し、書き起こした。同時に明治から昭和にかけての軍事的婦人団体のイメージが戦後に変化した実際を調査するために佐賀県下の銅像を調査した。 これらの平成23年度における「メディアと戦争柄」の研究成果は『月刊保団連』の8月号に「戦争と芸術1。戦争柄の着物」、9月号に「戦争と芸術2。絵本や紙芝居で兵士育成」、10月号に「戦争と芸術3。戦争画」として発表し、また『新聞赤旗』に「戦争柄とメディア」シリーズとして、8月24日「1.江戸由来の報道錦絵を拝借」、8月31日「2.芸者の競い合いと商魂」、9月7日「3. 絵はがきや書簡箋を使う」、9月14日「4. 昭和期にも日露もの」、9月21日「5. 古賀中佐と楠木正成」、9月28日「6. イメージ駆使した総力戦」を連載した。また12月のジェンダー史学会において「戦争柄着物の中にあるメディア―絵葉書、錦絵、ニュース映画など」を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本来は、日清戦争から初めて、日露戦争、日中戦争に関するメディアとの比較考察を順序正しく研究できれば理想的であると考えたが、新聞記事を図柄化した着物が新たに数点発見されたため、急遽、それについての研究を進めることになった。その結果が既述の『新聞赤旗』に連載した記事と、ジェンダー史学会での発表である。 詳述すると、現代ではあまり知られていない「古賀中佐」などの英雄の事績が更に古い英雄のイメージと結び合わせてどのように脚色されて、図柄として意匠化されたのか、また戦争中の望ましい庶民の日常生活がどのように図案化されたのか、などを、着物図案という特殊性を踏まえて分析した。戦中の大衆的な了解事項や着物の図柄に特有な約束事を共有するという前提下での意匠化であり、単なる歴史理解だけでは読み解けないことが分かる。 また、新たに発見された明治期の襦袢の中に、これまでの意匠とは全く異なる大胆な図柄がいくつか見られる。大胆な図柄とは、価格が高価であることを意味する。これは受容層を考える上では大きな問題である。一枚の襦袢に現在の価格で言えば100万円も費やして戦争柄を着る意味を考えなければならない。 そのように歴史的な順序には必ずしも適わないが、重要と思われる事柄について、現在の時点から可能な限り肉薄することを目指すという意味では当初の研究目的を達成するものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究に関連して最初に受けた科学研究費は平成16年度のものであった。その時にすでに、戦争柄着物を1000点以上実見し、350点ほどを収集しており、主たるものは網羅したと考えていた。しかし既述のように、そのから 7年も過ぎた現在に至ってもまだ、全く未見の、これまでのものとは明らかに異なる種類の着物を入手することがある。 そういう実態であるから思いがけない方向に研究が進展する可能性は常にあるが、取りあえず現時点で必要と考えるのは、日露戦争の折に大量に印刷された絵葉書との類同を調査することである。自分では所持しなくても、他のコレクターの持つなかにも10点以上の絵葉書柄があり、逓信総合博物館などの絵葉書コレクションとの比較研究を実施する計画である。 特に立命館大学の所蔵する友禅の下絵・絵刷、京都工芸繊維大学所蔵の図案帳などについては、調査する必要がある。 また、本研究課題は着物柄に関するものであるが、同時代の同テーマのさまざまな器物(陶磁器・ガラス器・人形など)の研究者とも情報交換して、分析、考察を深めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
最初に大きな資料を購入する。第一は日清戦争時の勲章などを大きく描いた縮緬襦袢であり、これが50万円である。また同じ時代の錦絵による軍人画に倣ったものが7万円余である。この2点の購入と、東京と関西への調査および資料代でほぼ、平成24年度の予算は費消されると予想する。
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Research Products
(3 results)