2011 Fiscal Year Research-status Report
テクノロジーアートにおける言説とメディア -死生観を反映した芸術表現-
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23520195
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Research Institution | Shizuoka Sangyo University |
Principal Investigator |
北市 記子 静岡産業大学, 情報学部, 講師 (90412296)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八尾 里絵子 甲南女子大学, 文学部, 准教授 (10285413)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | メディアアート / 映像メディア / 芸術表現 / 山口勝弘 |
Research Abstract |
本研究のテーマ設定後の昨年3月、我が国に未曾有の大災害をもたらした東日本大震災が発生した。この一年間、私たち誰もが深く悲しみを共有し、自分自身にとって極めて身近なこととして改めて「生と死」について考えることとなった。本研究の副題「死生観を反映した芸術表現」が、これほどの重みを持つものとなろうとは、我々自身も予想し得なかったことである。しかし、震災前と震災後では明らかに人々の価値観や人生観が変化しており、それは芸術分野の様々な動向にも大きな変化をもたらすことが予想されることから、本研究の重要性は以前にも増して高まっている。 そんな中、本研究の研究対象であるアーティスト・山口勝弘は昨年、震災の悲惨な記憶をテーマとする新作を発表した。(環境芸術学会第12回大会,10月,新潟大学 / 個展「三陸レクエム」,11月,玉川大学) 北市・八尾の両名は山口から委託を受けて、この新作の映像作品「三陸レクイエム」の実制作を行った。制作にあたって、何度も山口への聞き取りや文書でのやり取りを行い、彼の「死生観」を具現化する方法を模索した。その作品は山口の意向もあり、技術的あるいは構成的には極めてシンプルなものとなっているが、我々はそのプロセスにおいて、老練なメディアアーティストの揺るぎない「信念」のようなものを見出すことができた。 また上記の制作と併せて、2005年以降継続して行っている国内外のメディアアート・フェスティバルでの先端作品事例調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に記載した5つの具体的なアプローチの内、3項目((1)現代メディアアートの調査と分析、(2)山口勝弘自身への聞き取り調査と方向性の明示、(3)新作構想の具現化:表現手法の探求と作品展示)について順調に研究を進められており、具体的な成果(映像作品)も発表済である。 また、より大規模な新作(インスタレーション作品)の作品構想も具体化しつつあり、それに向けての様々な準備も既に始めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の年度毎のテーマは、23年度「基礎研究」、24年度「作品制作を通じて」25年度「作品制作と分析、次への展望」である。 24年度は、山口の新作構想(大型作品が想定される)具現化の検討と実行を主目的としている。山口本人の作品イメージはほぼ出来上がっているものの、その構想は壮大で、前年度に発表した新作映像作品とはジャンルが異なっている。その新作イメージは、大きな空間内に設置するビデオインスタレーションの形態をとっており、ビデオ(映像の)表現については、北市・八尾で解決できると考えている。しかしながら、現時点で明確になっている問題点として、技術的側面の対策があげられる。その方策として次の2点を既に進めている。(1)技術的解決の具体案の検討→山口のイメージを実現するのに最も適した技術的解決法は何か? (2)技術的側面のサポート体制作り(人的、制作環境的)→上記(1)を模索する為、現在、理工学系と情報系の研究者と共に意見交換を行っている。 これにより、山口の構想案を技術的に解決したプロトタイプを1及び2点、山口に提示したいと考えている。また、プロトタイプ制作だけに留まらず、今後、展覧会などで展示する為に要するあらゆる項目(費用、人員、会場、他)をあぶり出す必要がある。上記と共に、申請時に設定した山勝工場(淡路島)の実施調査も計画している。そのほか、平成17年度より継続しているメディアアートの調査(アルスエレクトロニカ)を行う。 25年度は、山口の大型作品の完成と展示を目指す。最終年は、これらの流れから山口独自の世界観を抽出し、「芸術とテクノロジー」或いは「言説とメディア」の関係性についてまとめてゆく。この成果は、日本のテクノロジアートの貴重な資料として位置づけたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究は、メディアアートの継続調査と山口の新作プロトタイプの制作を主とする。その内訳は旅費70万、物品費(映像機器等)30万、材料費(資材等)15万、図書費6万、その他(消耗品等)2万とし、経費総額は123万円とする。 平成25年度の研究は、メディアアートの継続調査と山口作品の完成(及びプロトタイプの提示・展示)、研究対象とする山口の調査資料のアーカイブ等を予定している。その内訳は、旅費70万、物品費(映像機器等)30万、その他30万とする。この年は、進捗状況により用途が変更すると考えられ、その他の部分に、作品プロトタイプの制作費及び、研究発表の為の費用等を含んでいる。経費総額は120万円とする。
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