2011 Fiscal Year Research-status Report
明治二十年前後におけるボール表紙本を中心とした埋没作家・作品の実証的研究
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23520244
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
池田 一彦 成城大学, 文芸学部, 教授 (10184417)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ボール表紙 / 埋没作家 / 埋没作品 |
Research Abstract |
明治期文学の研究はこれまで一応の文学史が整ってはいるが、明治初・中期に現れた、今日では忘れ去られたり埋没したりしている夥しい作家・作品の発掘・調査・研究については、約二十年前の平岡敏夫氏等による仕事を例外としてまだ殆んどなされていないのが実情である。本課題は、明治二十年に出版のピークを迎える明治期ボール表紙本を中心とするそれら埋没作家・作品を対象とした実証的な研究を目指すものである。 平成二十三年度の実施状況としては、先ず明治二十年を中心に明治期の文学作品をやや幅広く購入し集める作業から入った。内容的には戯作的作物を中心に政治小説から翻訳物、思想書等々を、形態的にはボール表紙本に限らず種々の和本や仮綴本形態の物に至るまで目配りしつつ収集した。ボール表紙の小説には、書き下ろしも多いが翻刻物や新聞連載物をボール表紙本として一本にした物も多く(珍しいところでは饗庭篁村の仮綴本装丁の叢書「むら竹」のボール表紙本化のような例もある)、一方でまた、ボール表紙で出された小説以外の内容の物にも広い意味での文学性が備わっていることが多いからである。同じ作品がボール表紙と仮綴本で同時に出されている異版や異装本もまた見逃せない。今回収集した書物を整理し読み進めて行く内に、南柯堂夢笑道人こと萩倉耕造という人物の明治二十一、二年頃流行った「決闘」を扱った当時珍しいオムニバス形式の『決闘状』という作品のあることに着目、時代を映した佳作として取り上げることとした処、作者の素性、異版の問題(国立国会図書館所蔵本は初版仮綴本で本文未完であるが、早稲田大学図書館所蔵本の方は同じ装丁ながら本文が完備していること、再販で初めてボール表紙本化したらしいこと)等々面白い事実がいろいろと判明したのでこれを論文化することとした。集めた資料は、順次データをパソコンに打ち込み、将来のデータベース化に繋げて行く予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査・研究対象とする明治期ボール表紙本を中心とした明治期刊行の著作物を、当初の予定通り主として原本を中心に収集できたこと、それらを一点ずつ吟味し、調査・整理する中で論文化するに足ると認められる一冊を何点かの候補の中から選び出し(『決闘状』)、その論文作成のための各種資料集めもおおむね順調に進んだので上記区分のような自己点検による評価を下した。あとは大方書き上げた論文の仕上げとパソコンへの書誌的なデータ入力を残すのみである。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、平成二十三年度の研究を深化・発展させる方向で進めたい。すなわち、課題達成のための調査・研究対象となる明治期ボール表紙本を中心に主として原本を、場合によっては複写を交えて収集・整理して行き、その中から特色あると認められる作家・作品を選定し紹介・分析・考察を加えて論文化して行く。併せて収集できた書物を中心にパソコンに書誌的データを入力して行く。尚、取り上げる作家・作品は、当初予定していたものと異なる場合もありうる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本課題は、「明治二十年前後におけるボール表紙本を中心とした埋没作家・作品の実証的研究」ということで、あくまで実証的に行われる、具体的な書物を巡っての埋没作家・作品の発掘・調査・研究とその結果のデータベース化が主眼であるため、物品費、特に書籍購入代・パソコン関連機器の研究費使用が大きくなった。あとは、地方の図書館・文庫等の調査旅費、データベース化に際しての謝金、参考資料・文具等の購入費、複写代・製本代などに用いる予定である。
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