2011 Fiscal Year Research-status Report
明治・大正期の中産階級読者から見た漱石文学の「新しさ」に関する構造的研究
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23520252
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
石原 千秋 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00159758)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 夏目漱石 / 家庭小説 / 個人 / 新しさ |
Research Abstract |
本研究の目的は、明治期になって輸入された「現代思想」がどういう言説で当時の「朝日新聞」の読者層、すなわち誕生期にあった大衆(都市の中産階級)に与えられたかを分析することで、当時の読者にとって、前近代の思想だけでなく、明治・大正期の「現代思想」にも精通していた漱石文学の何が「新しさ」として見えていたのかを構造的に明らかにするところにある。 「朝日新聞」は、明治30年後半に中産階級の住むエリアだった東京の山の手をマーケットにして発展した。その高級紙としてのイメージ戦略の中心が、当時東京帝国大学教官にして有望な「新人作家」でもあった夏目漱石を専属作家として迎えることだった。夏目漱石はその戦略に忠実に作家活動を行った。漱石文学が、当時としてはまだ珍しい家族形態だった核家族を書き続けたことや、女性を男性と拮抗する存在として書き続けたことは、「新しさ」の例としてあげることができる。家族の形を規定する民法の解説書や近代にける女性の生き方を指南した書物が続々と刊行されたのは、これらが「新しい思想」だったからである。 明治30年代に、特に新聞小説として大流行した家庭小説は、こうした「新しい思想」に触発されたものである。ただし極端に言えば、物語の筋は、坪内逍遙が『小説神髄』で批判した戯作もののように波瀾万丈ながら、結末は家庭の幸福に収まるように作られていた。漱石がそれを強く意識してやや追随したのは『虞美人草』一作につきる。この作品は、当時開催されていた東京勧業博覧会を背景に「新しさ」を見せてはいるが、家庭という思想からは明治30年代の枠組みから出るものではない。その後の『三四郎』以降の小説は、むしろ家庭という思想を物語の背景に後退させ、その思想から自立する主人公を書き続けた。そこに「個人の自立」という、より「新しい」思想が浮かび上がってくる仕掛けになっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「新しさ」について、明治30年代に流行した「家庭小説」との比較からある程度の結論を得たのでおおむね順調ではあるが、それは、漱石文学に関わる思想全体から言えば、メインではあるが、一部にすぎないからである。
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Strategy for Future Research Activity |
明治から大正期に流行った「家」と「家庭」という形態とその思想について、より広範囲から背景となった思想について、当時の一般書から探ることになる。また、当時「個人」という思想を支えたのはどのような「新しい」思想だったのか、それを探ることも今年度の課題である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
明治・大正期の「新しい」思想状況を表象しているものを収集する。それらは直接古本双六などを購入するほか、RAを使って当時の新聞や雑誌をコピーする。
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