2012 Fiscal Year Research-status Report
明治・大正期の中産階級読者から見た漱石文学の「新しさ」に関する構造的研究
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23520252
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
石原 千秋 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00159758)
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Keywords | 夏目漱石 / 女の謎 / 進化論 |
Research Abstract |
今年度は、明治・大正期の人びとがとらわれていた「進化論的パラダイム」から、漱石文学を捉え直した。その結果、「主人公」、「写生文」、「女の謎」といった複数のコンセプトからアプローチを試みた。 「主人公」は、坪内逍遙の『小説神髄』においても、物語を原因と結果の因果律で統括する人物として設定することが提起されていた。これは歴史を原因と結果によって記述する進化論的パラダイムの一環である。自然主義文学においてもこうした物語の統括のしかたは否定されるが、漱石は複数の主人公を設定することで、新しい主人公のあり方を模索している。 「写生文」もまた因果律による物語の統括を否定するので、漱石が写生文の思想から学んだものは大きい。 「女の謎」は一見すると進化論的パラダイムとは無縁に見えるが、そうではないことがわかってきた。それは、明治期には進化論に基づく「両性問題」が「問題」として「発見」され、進化論的に男女が異質だとされることによって、女性は生物学的にも「謎」を抱えた存在と位置づけられるようになったからである。こうしたパラダイムを受けた社会状況としては、女学校の発展などによって一般の女性が一般の男性と触れ合う機会が増えてきたが、平安朝以来の武士の文化を引き継ぐ中産階級以上に属する男性には、一般女性と「交際」する方法を持っていなかった。そこで、中産階級以上に属する男性には「女の謎」が大きな問題として浮上したのである。漱石文学は、一人の女性と二人の男性による三角関係を繰り返し書くことで、どちらかの男性を選ぶ女性の意思決定を「女の謎」という新しい問題として提示し続けた。 研究成果としては、単著『近代という教養 文学が背負った課題』(筑摩選書、2013年1月、p1~p261)がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
漱石文学の「新しさ」に進化論的パラダイムが関わっていたことを明らかにできたことは大きな収穫だったが、その解明に力を入れたために、明治30年代の家庭小説と女学生小説の分析がやや遅れ気味となった。
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Strategy for Future Research Activity |
明治30年代の家庭小説と女学生小説を進化論的パラダイムとの関わりにおいて分析し、漱石文学の新しさを明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
家庭小説と女学生小説を支えた思想を、同時代的な資料を基に明らかにするために、主に明治・大正期の資料を購入、またはコピーで収集する。
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Research Products
(1 results)