2013 Fiscal Year Annual Research Report
明治・大正期の中産階級読者から見た漱石文学の「新しさ」に関する構造的研究
Project/Area Number |
23520252
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
石原 千秋 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00159758)
|
Keywords | 夏目漱石 / 家庭小説 / 女学生小説 / 明治民法 |
Research Abstract |
漱石文学はが同時代の読者にとって「新しい」と感じられたとすれば、それはどこかが似通っている明治30年代の小説と、たとえ無意識であったとしても、比較したときだろう。その意味において、明治30年代に流行した家庭小説と女学生小説は、確実に比較対象となっていたはずである。 家庭小説との比較においては、家庭小説が「家庭における健全な愛」をテーマとしたのに対して、漱石文学は明治31年に施行された明治民法の枠組みによって家族に関係がどういう意味を持つのかが問われており、むしろ徹底した「愛」への疑いが書かれている。その意味で、漱石文学は「家族小説」と呼ぶべきだと考える。 女学生小説との比較においては、女学生小説がかなりプロトタイプした女学生像しか提示し得ておらず、小説の筋はやや荒唐無稽なところがあったのに対して、漱石文学は明治30年代に女学校を卒業したと思われる女性たちを書き続けた。彼女たちは結婚を考え、あるいは家庭に入るが、その際に彼女たちの取りうる行動は、女学生が持てた自由からは遠く、ごく限られたものだった。それは、やはり明治民法が規定した女性の地位の低さが影響している。漱石文学はそういう女性たちが強いられた不自由の中で、いかに主体性を持ちうるのかを問いづけた。 これらの点において漱石文学は「新しい」と感じられただろう。したがって、漱石文学はポスト=家庭小説であり、同時にポスト=女学生小説でもある。 研究成果としては、『『こころ』で読みなおす漱石文学 大人になれなかった先生』(単著、朝日文庫、2013年6月、p1~p299)がある。これは既刊の著書に、2章分を新たに書き下ろして付け加えた文庫である。その2章分に以上のような内容を盛り込んだ。
|
Research Products
(1 results)