2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520261
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
岡田 三津子 大阪工業大学, 知的財産学部, 教授 (50201984)
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Keywords | 道行文 / 宴曲 / 平家物語 / 曲舞 / 和歌 / 宴曲譜本 / 特徴的用字 |
Research Abstract |
宴曲詞章の文学史的考察を基点として、軍記物語・曲舞など他の分野への影響を辿るために本年度も昨年度に引き続き、宴曲譜本の悉皆調査に重点を置いた活動を行った。その結果、『早歌全詞集』に示されている所蔵者について変更を加えるべき伝本があることが判明した。今後の研究に資するためにも、現時点における所蔵者について、丹念に確認する必要があることを再認識した。なお、調査に出かけられる期間に制約があるため、実際に詠唱するために用いられていた数本(北海道大学本・円徳寺本・尊経閣本)が未調査のままである。〈熊野参詣〉本文について、従来、検討対象とされなかった冷泉家時雨亭文庫本を加えて、主要伝本の本文対照と行った。その結果、続群書類従系統の代表的伝本と位置付けられてきた神宮文庫本ときわめて近しいことが判明し、従来の伝本分類そのものを見直す必要が生じたことは今年度の最も大きな収穫であった。外村久江による伝本調査および伝本研究から半世紀が経過した現在、所蔵者・新出伝本も含めた伝本論の再構築が課題である。 平成24年12月16日(日)神戸女子大学教育センターにおいて、特別研究会を実施した。本年度は「宴曲〈熊野参詣〉を読む」をテーマとして、和歌研究および軍記・仏教文学研究の立場から、宴曲〈熊野参詣〉の詞章について総合的考察を加えた。発表者を2名とし、司会およびコメンテーターをそれぞれ設定したことで活発な議論を展開できた。また琳阿が曲舞〈西国下〉作詞に際して用いた平家物語本文について考察し、宴曲〈領巾振恋〉をも含めた影響関係を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成24年度には、宴曲伝本の悉皆調査を完了する予定であったが、調査日程の確保が難しい状態であったため、未調査の伝本を数本残す結果となった。とりわけ、尊敬閣文庫本の位置づけについて、詳しい考察を加えることができなかった。また、松平文庫本については、書誌調査は完了したが調査日数の関係で写真撮影ができないままになっている。 平成23年度は続群書類従系伝本に見える特徴的な用字を視野に入れて校訂本文を作成するという基本方針を立てていた。しかし、本年度の作業の結果、その代表的本文として位置付けられている神宮文庫本が時雨亭文庫本ときわめて近いことが判明した。時雨亭文庫本も含めて丹念に異同を取ることで、従来の伝本分類そのものの根本的な見直しに繋がるという見通しを立てることができた。 平成23年度・24年度の活動を通じて、校訂本文作成のための基準とすべき伝本の選定が完了した。宴曲伝本は巻によって伝存情況に差があるため、室町期譜本の多い『宴曲抄』から校訂作業を始めている。伝本の位置づけ・選定に予想外に時間を費やしたため、校訂作業は緒に就いたばかりである。 琳阿作の曲舞<西国下>に注をつけ、宴曲詞章・平家物語本文との関連について考察し論考を執筆した。また、<熊野参詣>の歌語については、研究協力者家永香織によって詳細な注をつけることができた。漢語・仏教語については、未完の状態である。
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Strategy for Future Research Activity |
伝本調査と平行して、室町期譜本の対校本文を作成することで従来の伝本分類そのものを再検証することを最優先の目標とする。具体的には、以下の課題克服を目指す。第一に未調査の伝本の書誌調査および写真撮影を完了させる。とりわけ、松平文庫本については国文学研究資料館にマイクロフィルムがないこともあり、できるだけ早い時期の撮影を目指す。第二に、時雨亭文庫本を視野に入れた対校本文作成を行う。その際、室町期譜本が最も多く伝存する『宴曲抄』を取り上げる。研究代表者である岡田三津子が担当する。研究協力者として明治大学非常勤講師神田裕子を依頼する。 昨年度、手つかずのままであった宴曲譜本と平曲譜本の関係について三手文庫本の注記を端緒として考察を加える。連携研究者鈴木孝庸が担当する。 一昨年度・昨年度に引き続いて特別研究会を開催する。連携研究者櫻井陽子が、発表者の選定および依頼、具体的実務を担当する。特別研究会のテーマとしては〈善光寺修行〉を取り上げる。岡田が主となって、輪読会を開催する。宴曲研究の第一人者である外村南都子に参加を依頼する。 上記の研究を通じて、文学史的視野から考察を行い、中世における道行文形成の過程を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、松平文庫本の写真撮影および紙焼きを予定していたが、先方の都合で撮影ができなかった。その結果、7.4万円を平成25年度への繰越金とした。 平成25年度は、伝本調査および3名での研究会(輪読会)開催のため、旅費として50万円を支出する。撮影写真データ処理のため、デスクトップパソコン購入費として12万円を支出する。伝本の写真撮影および焼き付けの費用として20万円を支出する。関連図書購入費用として8万円を支出する。 平成23年度・24年度に引き続き、今年度も特別研究会を開催する。研究発表者への謝金および旅費として12万円を支出する。研究会開催のための雑費として5万円(案内発送費・ポスター作成費・会場費等)を支出する。
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Research Products
(7 results)