2012 Fiscal Year Research-status Report
ブラジルの日本語文学史―同人サークルの形成と民族意識の変容
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23520273
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
細川 周平 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (70183936)
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Keywords | 日本移民 / 日本文学 / ブラジル |
Research Abstract |
3月10日より4月8日にかけて、ブラジルを調査旅行し、日本語文芸サークルと接触した。サンパウロ州では、文芸雑誌を個人出版している伊那宏宅にて、出版物を閲覧し、聞き取り調査を行ったり、彼が所属するブラジル川柳会の月例会に出席し、出席者の文芸歴について質問を行った。『ブラジル俳文学』主宰者、間嶋稲花水と12月の新潟実地調査(佐藤念腹句碑見学ほか)について話し、彼の俳句歴について新たなエピソードを聞けた。7月に商業出版した松井太郎小説選集第2巻『遠い声』(松籟社)の著者を訪問し、収録作品についての自己解釈を訊いた。蜂鳥句会を主宰する富重久子と連絡を取り、同会主要メンバーとまとめて話す機会を得、高齢化する日本語文学界全体についての不安を聞いた。『ブラジル日系文学』誌主催の武本文学賞受賞式に出席し、松井太郎、中田みちよ他、多数の文芸関係者と談話した。 とりわけ印象深かったのは、詩壇の重鎮、大浦文雄に連れられて、戦前から短歌・小説を発表してきた則近正義の病床を訪れたことで、筆談により、文芸との出会い、日本語文壇との関係、文学観について会話を行った。 3月18日より27日にかけて、北ブラジルを調査した。パラ州ではトメアスーにてトメアスー俳句会の新井伯石に連れられ、同地で句会に参加する4名に聞き取り調査を行った。同氏からは最近の句会レポートの複写を入手した。ベレンでは風みどり句会の主宰者、渡辺悦子と数度面会し、同氏の俳句歴、アマゾン流域の俳句活動の歴史、特殊な季語の成立などについて、話し合った。短い滞在だったが、これまでサンパウロ州、パラナ州に偏った調査を北ブラジルへ広げることができた成果は大きい。 バイーアではイタリア系文学者とブラジル文学と移民について、全般的な議論を行った。50年ほどしか続かなかった日本移民の集団が、母語に関してイタリア語圏と異なることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までの研究成果を総括する『日系ブラジル移民文学』(みすず書房、全2巻)を出版し、文芸各ジャンルごとの歴史、特筆すべき人物や作品、主題について公開できた。このテーマにとって最初の著作で、現地の文芸関係者から貴重な意見をもらっている。今年度は書評会が企画されていて、北米の日本語文学研究者や文学以外を専門とする日系移民史研究者からの意見を聞ける。
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Strategy for Future Research Activity |
母語で文筆を執る一世にとっての日本語共同体縮小の意味を問い、母語ナショナリズムの今後について考える。これには移民意識の薄い日本生まれのブラジル在住者との比較が重要になるだろう。文芸サークルの主要な執筆者とは既に聞き取り調査を行ってきたが、作品数の少ない著者とはいまだ接触をはかっていない。今後はそうした底辺にも人脈を広げたい。懸案の北米日本語文芸との比較については、日文研にて主宰している共同研究班のメンバーと拙著について議論し、視野を広げたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
8月から9月にかけて現地調査を行い、本年度築いた人脈を保ち、個人所蔵の資料の入手に努める。蜂鳥句会、椰子樹全伯短歌大会、ブラジル川柳会、アリアンサ文章会など複数のサークルの集まりに出席し、日本語社会の将来像や個人と文芸との関係などについて、聞き取り調査する。サンパウロ人文科学研究所、ブラジル日本移民史料館、国会図書館、JICA横浜移住資料館などを引き続き、閲覧する。
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Research Products
(3 results)