2013 Fiscal Year Research-status Report
ブラジルの日本語文学史―同人サークルの形成と民族意識の変容
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23520273
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
細川 周平 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (70183936)
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Keywords | 日本移民 / 日本文学 / ブラジル |
Research Abstract |
昨年度報告書にて記したように、年度またがりで2013年3月10日より4月8日にかけて、ブラジルへ調査出張に行き、日本語文芸サークルと接触した。本年度は時間をとってから再調査に向かうほうがよいと判断し、海外出張は行わず、メールや手紙で当事者と連絡を取りつつ、次回の調査に備えた。 インタビューでは移民の高齢化に伴い、死について多く語られた。個人の死が世代や母国語の衰弱や死とつながる移民に固有の死生観が強いことが確認された。子孫に伝承されなかった母国語については、既に多くの短歌や川柳が存在するが、今日では言語社会全体が消滅しつつあると認識されていて、ある者は嘆き、ある者は超然と受け入れている。前年度調査で病床を訪れ筆談を行った則近正義が、その数ヶ月後に亡くなる事件があり、研究者として深く考えさせられた。2014年初頭には昨年度、一昨年度に俳句会にて面接していた俳人が病死し、研究の緊急性を思い知らされた。文芸作品を通して描かれる晩年の移民の死生観が今後の課題となるであろう。 出版成果としては細川周平編『コレクション・モダン都市文化 第93巻 南米への移民』(ゆまに書房、2013年12月)の解説として執筆した「南米雄飛を求めて」が最も重要で、収録されたのは永田稠『南米日本人写真帖』(1921年、日本力行会)、古沢清外『ブラジル移民としての五年間』(1929年、海外興業株式会社)、桜井進『移植民の楽土』(1940年、日本社)で、いずれも戦前の移民政策と深くかかわる。それぞれの詳細な書誌と移民史上の意義を論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度末より本年度初頭にかけて年度をまたがった調査で、インタビューを多く得てきたが、時間をおいて再インタビューするほうが学術的に効果的であるため、次年度に延長し、最終調査出張を行うことにした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に延長してまず6月から7月にかけて、ブラジルとアルゼンチンにて調査を実行する。ブラジルでは本年度までに得た人脈を確保しながら、川柳、俳句、短歌の作者たちとインタビューを行い、ブラジル日系文学会の現会長に移民文学全般について質問する。アルゼンチンでは日系二世のラプラタ大学文学部教授と移民文化全般について議論するほか、ブエノスアイレスにかつて存在した日本語文学サークルの旧メンバーとインタビューし、出版物を収集する。さらにある一世の小説のモデルとなったミシオネス州在住の日系家族を訪問し、家族史について聞き取り調査を行う。 8月か9月にハワイの日系社会を訪問し、文芸資料を収集しつつ、家族より一世のサークルについて聞き取り調査する。本課題はブラジル移民文学を課題としたが、アルゼンチン、ハワイと枠を広げ、今後の比較研究の準備としたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度末から本年度初頭にかけて、年度またがりで調査を行ったが、一定の時間をおいてから再調査するほうが、変化を観察でき、学術的に有効であるため、次年度の調査に延長した。その間、アルゼンチン一世の小説が日本で出版され、ブラジルの場合と比較することが良い展開と考え、作者の遺族や関係者と本年度後半にコンタクトにはじめ、年度末にようやく連絡がついた。そのため次年度早いうちにブラジルとアルゼンチンの両国を訪問する計画を立てた。これは年度延長となるが、有益な結果を生み出すだろう。 6月から7月にかけてブラジルとアルゼンチン調査旅行を行う。8月か9月にハワイに調査旅行を実施する。
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Research Products
(13 results)