2014 Fiscal Year Annual Research Report
想像力の作用を基盤に据えた20世紀以降のジャンル論的批評と物語理論の展開
Project/Area Number |
23520285
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
鈴木 聡 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80154516)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 物語言説 / ジャンル / 虚構テクスト / 想像力理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、テクストの精読という伝統的方法を今日的視点から再検討し、それを徹底化し精緻化する試みをつうじ、従来説明困難と考えられてきたテクストにも有効に対処できるようにすること、より広汎な意味における物語言説の分析に応用し得る方法論を構築することを目的としてきた。その過程において、20世紀の虚構テクストの代表として取りあげられたヴラジーミル・ナボコフの作品の考察をとおし解明されたものとは、主として長篇小説と称されるジャンルの特性にかんする問題と、人間の想像力の機能をめぐる一般的理論の可能性、方向性である。それに加えて、ナボコフの主要作品の全容を概観するという副次的成果も得られた。 計画の最終年度においても、前年度までの実績に引き続き、研究代表者(鈴木聡)のもとに基礎資料をなるべく網羅的かつ継続的に蒐集することを心がけた。それらの資料の蓄積にもとづき、またそれらを詳細に読解する日常的な努力をとおして、着実に研究を進捗させ、その各段階において論文を執筆し発表することを旨としたことも前年度までと同様である。今年度は「移行と停滞──ヴラジーミル・ナボコフの『ボヴァリー夫人』論」と「断片と模像──ヴラジーミル・ナボコフの『ローラのオリジナル』」という2篇の論文を発表した。これらの論攷において、過去数年間の論攷において集中的に考究してきた長篇小説作家としてのヴラジーミル・ナボコフの特質を踏まえつつ新たな展開を試みた。ナボコフが正典的なテクスト(この場合はギュスターヴ・フローベールの作品)にたいして示した批評的見識を手がかりとして、研究の広がりをめざすいっぽう、断片的なカードとしてしか残されていない未完の長篇小説において、文学者としての経歴の総決算をめざす志向と並んで、それまで前面に浮上することのなかった形而上学的問題と果敢に取り組もうとする意欲が認められることを論じた。
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