2013 Fiscal Year Annual Research Report
ウィリアム・バトラー・イェイツの超自然演劇における表象構造に関する研究
Project/Area Number |
23520286
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
佐藤 容子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30162499)
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Keywords | W.B.イェイツ / サウンド・シンボリズム / 能 / スピリチュアリズム / フォークロア |
Research Abstract |
本研究の目的は、アイルランドの詩人・劇作家・神秘家であるウィリアム・バトラー・イェイツの超自然演劇における複合的な表象構造を明らかにすることである。分析にあたっては、日本の「能」との接触によってイェイツが創出した独自の演劇形式について考察すると共に、イェイツが体系的に用いる「サウンド・シンボリズム」と演劇構造との関係を論じた。 平成25年度においては、『鷹の井戸』と能『養老』との比較、及び『猫と月』と狂言『不聞座頭』の比較を行うことを通じて、イェイツが、出典とされている日本の能・狂言の構造をむしろ転倒させる形で取り入れている点に特色があることを示した。またイェール大学のエズラ・パウンド・アーカイブにある『不聞座頭』の英訳草稿を入手し、イェイツが接しえた『不聞座頭』のテクストを大蔵流や和泉流のテクストと比較検討した。 イェイツの『鷹の井戸』も『猫と月』も聖水をめぐる劇作という意味で共通したテーマを持つが、前者は悲劇として英雄的選択の両義性に焦点が当てられ、開かれた形式となっているのに対して、後者は笑劇として、二人の対照的な登場人物の選択がそれぞれの幸福に繋がったとする結末を用意している。このことは、イェイツの出典の一つとされる能『養老』が泰平の舞で締めくくられ、一方、狂言『不聞座頭』が二人の登場人物の争いに解決が与えられることなく開かれた形式のまま終わるのと逆になっていることを示した。 さらに対照的な二者に幸福を与えるという『猫と月』の構造は、この劇作におけるイェイツの「サウンド・シンボリズム」にも反映されていることを明らかにした。すなわち、イェイツの体系において、基本的な対立軸をなす/b/音と/f/音が、魂を象徴する「足の悪い乞食」と肉体を象徴する「目の見えない乞食」の双方に割り振られていることにより、この対照的な二人の登場人物の類似性がより強調されている点を明らかにした。
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