2012 Fiscal Year Research-status Report
『ハムレット』のテキストにおけるパッセージレベルの異同に関する研究
| Project/Area Number |
23520288
|
|---|
| Research Institution | Niigata University |
|---|
Principal Investigator |
辻 照彦 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (30197678)
|
|---|
| Keywords | シェイクスピア / ハムレット / テキスト問題 / First Quarto / Second Quarto / First Folio / 著者改訂説 |
|---|
| Research Abstract |
平成24年度は、『ハムレット』のSecond Quarto (Q2)とFirst Folio (F1)という2種類のテキスト間のパッセージレベルの異同のうち、3幕4場のクロゼット・シーン中のいわゆる ‘the engineer’ passageについて分析を進めた。このパッセージは、『ハムレット』の比較的長いQ2-only passageのなかで最も多くの研究者から作者シェイクスピア自身による意図的なカットと見なされてきたパッセージである。研究代表者は、Philip Edwardsに代表される作者改訂説論者の議論を整理した。そして、ハムレットをイングランド王に殺害させるというイングランド計画について、Q2/Fバージョン、Q1バージョン、そして Saxo GrammaticusやBelleforestの原話を比較することによって、シェイクスピアが周到な準備の基にイングランド計画を描いていることを明らかにした。特に、3幕4場でハムレットが学友二人に不信感を持つことが不自然とならないように、シェイクスピアは巧みにイングランド計画に関するシーンの配置を変更していることを指摘した。
さらに、5幕2場のハムレットが親書書き換えの顛末をホレイショーに説明する場面を詳細に分析し、作者改訂説論者が主張するような、3幕4場との矛盾や齟齬は、テキストの誤った解釈から生じていることを明らかにした。なお、この研究成果については、「『ハムレット』3幕4場のQ2-only Passageに関する一考察（仮題）」として、平成25年6月発行予定の『新潟大学言語文化論集』に発表する予定である。
|
| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度については、『ハムレット』のテキストにおけるパッセージレベルの異同のうち、3幕4場のQ2-only passageについて、複数の新しい知見を得たことから、おおむね順調に進展していると評価している。
|
| Strategy for Future Research Activity |
平成25年度には、5幕2場のF1-only Passageを中心に分析する。このパッセージは、著者改訂説の重要な根拠の1つとされてきたものであり、極めて重要なパッセージである。問題のパッセージについて、3種類のテキストを詳細に比較分析することにより、Q2からの削除説とF1への追加説の双方について、その妥当性を検証する。さらに、上述の分析結果と平成23年度からの研究成果を踏まえたうえで、『ハムレット』のテキストにおけるパッセージレベルの異同について得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う予定である。
|
| Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の物品費はおもに英語文献の購入に使用する。中心となるのは、シェイクスピアのテキスト問題を扱った研究書、『ハムレット』の原話に関する研究書、さらに、エリザベス朝時代の戯曲の出版と読者に関する研究書である。また、シェイクスピア・サーベイをはじめとする、最新のシェイクスピア研究の動向を把握するための論文集や、国内外の研究機関から、『ハムレット』の古いエディションの複写資料も入手する予定である。
研究費の旅費は国内の出張に使用する。学会出張としては、5月に開催される日本英文学会、10月に開催される日本シェイクスピア学会、さらに、年数回慶應義塾大学日吉キャンパスで開催されるエリザベス朝研究会に出席する予定である。また、エリザベス朝演劇の古版本に関する資料を収集するために、筑波大学や慶應義塾大学日吉キャンパス等に出張する予定である。
なお、「次年度使用額」の研究費は、すでに平成25年度3月までに旅費として使用済みであるが、支払完了が平成25年4月にずれ込んだものである。
|
Research Products
(1 results)
