2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520290
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
山本 卓 金沢大学, 学校教育系, 教授 (10293325)
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Keywords | 太平洋文学 / マオリ文学 / コロニアリズム / 植民地主義 |
Research Abstract |
平成24年度はマオリ文学の読解と関連資料の発掘を中心に研究を進めた。特にIhimaeraを中心課題とし、マオリ民族への歴史・文化背景と作品モチーフとの相同性・相違性を探る一方で、前年度の課題として検証したAlbert Wendtなどの島嶼作家が問題化するテーマとの比較検討を行った。 研究継続中のため暫定的な結論となるが、物語の白人表象について島嶼作家とマオリ作家との間にはかなりの差が確認された。たとえばWendtの作品では一貫して白人は批判の対象であり、経済格差とともにもたらされる文化的な侵入に対して非常に敏感である。他方、マオリ作家は現代マオリ民族における白人文化の影響に対して島嶼作家ほどの批判的姿勢は明確にせず、所与のものとして扱っている。ヨーロッパ系ニュージーランド人はマオリの土地簒奪という脈絡では批判の対象として現前化するものの、それ以外の場面では背景に隠れてしまうことが多い。「広い」太平洋文学という視点に立った場合、こうした差異を個々の作家の作風や歴史状況といった個別的な要因に還元するだけではなく、これからの太平洋世界における民族主体のあり方の徴候として包括的に扱う必要がある。こうした知見を踏まえると、環太平洋という「さらに広い」コンテクストも本研究課題の次のステップとして浮上した。 本年度はニュージーランドへ渡航し、ウェリントン大学とオークランド大学において資料の収集を行った。前年度に行った国内での資料調査の結果、現地で集める資料を具体化できたため、効率のよい調査ができた。また、平成25年度、さらには次の研究対象として期待できる環太平洋の文学におけるヨーロッパ人表象の関連で、1月に沖縄、3月に台北での共同研究の可能性の検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度は当初の研究計画を前倒しして、島嶼作家からマオリ作家の作品読解へと移行することができた。今年度においてPatricia GraceやAlan Duffのテクスト読解はおおむね計画通りに進行したが、Ihimaeraは多作であることにくわえて、その作品はおしなべて大部であるため、本研究テーマに合致するもの、また評価の高いものを中心に検証に取り組んでいるものの、当初の予定よりもかなり時間がかかっている。また、彼の作品を読み進めていく過程で、作品世界におけるマオリの土地戦争問題の重要性が浮上し、それらの歴史研究にかなりの時間をかけたことも研究進行の遅延の原因である。歴史表象の問題に関しては、ニュージーランドで収集したヨーロッパ系作家によるマオリの土地戦争をテーマにした作品を読解することで、マオリ作家による歴史表象および白人表象の相対化を試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
島嶼作家の作品読解と歴史研究は平成23年度にほぼ完了しているため、今年度前半はマオリ作家の読解とともにニュージーランドの歴史研究を進め、島嶼作家、マオリ作家のそれぞれが描く白人表象を比較・検証する。本年度の歴史・文化分野の研究で重要になってくるのは、現代のニュージーランドにおける民族地勢図の急速な変化である。20世紀後半の島嶼民族の帰化や20世紀末のアジアからの移民の増加によって、ニュージーランドの民族はヨーロッパ系とマオリ系の二項対立で捉えることができなくなっている。文化背景の共有領域が拡大した二種類の作家群が、21世紀において白人/現地人の構図をどのように捉えているのか、どの領域を共有し太平洋民族として白人を眺めるのか、その一方で、民族固有の視点をどのように保持し続けるのかを同定することが今年度中盤からの中心作業となる。 これまでの研究が示唆する環太平洋の概念の必要性も念頭に置き、学際的な共同研究や共同シンポジウムの可能性も同時に探る。現在のところ対象となるのは、太平洋文学に加えて、台湾文学や日本文学におけるヨーロッパ人もしくは植民者表象を考えている。 また、今年度は昨年度の進行遅延のために十分にはできなかった成果発表を、口頭発表と論文によって行う。成果は今年度の秋以降になる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度の繰越金と併せて、8月頃にハワイ大学マノア校へ一週間程度の資料収集に赴くことで、50万円を支出する一方、国内の発表旅費、打ち合わせ等で15万円を支出する。残金は図書、コピー等の物品に充当予定である。
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