2011 Fiscal Year Research-status Report
ヘンリー・ソローの教育哲学における「円」、「成長」および「自由」
Project/Area Number |
23520316
|
Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
小野 美知子 岩手医科大学, 共通教育センター, 准教授 (20326698)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 米文学 / 教育哲学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、ヘンリー・ソローの思想が独特の教育哲学として解釈され得ることを、『日記』等の資料の広汎かつ詳細な分析により証明することである。従来のソロー研究は、主として『ウォールデン』やエッセイを中心に、彼を超絶主義者、政治批判者、博物学者として解釈することに重点が置かれてきた。しかし、ソローの思想の根源には、人間の成長が自然との接触に深く影響されるという自然主義的教育思想があることは明らかである。自然と教育の相互関係という視点から、彼の著作活動の全体を包括的に分析することによってはじめて、ソローを真に革新的な、超時代的な著述家として、十九世紀アメリカ文学史・思想史の中に正当に位置づけることが可能になる。本研究では彼の教育哲学の分析を中心として、「自由」に関する彼の思想を詳細に解明するよう努めた。 ソローは、教師として「生徒を知的に、道徳的に自由にする」ことを目標とし、「自由の哲学者」とも呼ばれる。彼にとって「自由」とは人の本性の尊厳に正比例するものであり、人をして「理性」に対してのみその思考と行動の責任を負わしめるものであった。また彼の考える「自由」の中には「特定の才能を伸ばす自由」も挙げられているが、これは、彼の教育の目的が、生徒が自らの能力を十分に伸ばし成長する手助けをすることであったことを想起させる。ソローの教育哲学の分析を通して、彼の「自由」についての見解を、時代を超えた他の哲学者や思想家、例えば、カント、シモーヌ・ヴェイユ、エーリッヒ・フロム、ジョン・デューイ、ジョン・ステュアート・ミル、ベルクソン等の見解とも比較しながら明らかにする計画であったが、彼らは社会の枠組みになかで「自由」を論じることが多く、まだ結論は出ていないのが現状である。本研究は英語で書かれており、今秋には論文集において発表する予定であるので、できるだけ早い時期に結論に到達したいと思う。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の達成度が「おおむね順調に進展している」理由としては、以下の項目のように、資料の収集がうまく行われたことを挙げることができる。1.米国マサチューセッツ州におけるソロー学会年次大会に参加したことにより、資料に関する情報を得、研究発表から貴重な知識を得た2.国立国会図書館その他の国内機関を利用し、貴重な資料の複写ができた3.他大学の図書館から必要な資料の借り出しが可能であった。これらの資料のおかげで前半はスムーズに論を展開することができた。 しかしその一方で、膨大な資料の中から必要な情報を探し出すには多くの時間を要し、時間の確保がうまくいかなかったのも事実である。平成二十三年度は三月の地震のため授業が変則的で、夏季休暇は実質二日しか取れないという状況であった。理由にならないかも知れないが、個人的には担当授業時間数が例年より多く、まとまった研究のための時間を確保するのが困難であったことは否定できない。また研究の内容の面からは、時代を超えた他の哲学者、思想家の見解に手を広げすぎたようにも思われる。 以上のような理由から、おおむね順調に進んではいるものの、研究が当初の予定通りには運ばず、結論が出ないままであるのは極めて残念なことであるが、本研究は英語で書かれており、今秋、所属学会発行の論文集に掲載される予定である。今後はできる限り早い時期に納得の行く結論に至る努力をして論文をまとめ、完成させて平成二十四年度の研究テーマへと移る所存である。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成二十四年度の研究課題は、ヘンリー・デイヴィッド・ソローの教育哲学における「円」である。ソローにとって「円」の持つ意義、および三次元においてそれに相当する「球」の意義を、主にソローの『日記』、その他の諸作品を中心に研究を進め、それが彼の教育哲学とどのような関連性を持つかを探究する予定である。この二つの形状に関しては、古代ギリシャ哲学、ドイツ哲学、ケルト思想などの歴史的思想を背景に、「螺旋」や「楕円」との関連も考慮に入れながら、その中にソローが見ていたものは何か、という問題を解明する計画である。ソローの諸作品には「円」や「球」のイメージが多く見られ、木の年輪のほかにも湖上の波紋、飛翔する鳥の描く円、宇宙の惑星およびその軌道など、さまざまな物や現象への言及がある。さらに、「円」のイメージは彼の主著『ウォールデン』の構成上の原則になったと指摘する研究者もいる。またその一方では、ソローがウォールデンの森から一般市民の生活に戻ったのは「円」に象徴される四季の循環から飛び出したことを意味すると示唆する研究者もいる。それは垂直方向への動きとも関連し、平成二十五年度の研究課題である「成長」にも通ずるものである。 平成二十四年度の目標は、「円」に関するソローの見解を深く研究し、彼の教育哲学におけるその意義を解明することである。そのためには初年度同様、海外および国内の学会に参加して情報を収集し、図書館を利用すると同時に図書を購入する計画である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成二十四年度の研究費の使用計画については、海外の研究大会参加二回、国内の学会参加二回、その他物品、設備品の購入などである。その内訳は、1.Conversazioni in Italia(六月)2.2012 The Thoreau Society Annual Gathering(七月)3.日本英文学会全国大会(五月)4.日本ソロー学会全国大会(十月)5.日本アメリカ文学会全国大会(同時・十月)6.図書購入7.文房具、紙、ファイルなどを購入。以上である。なお、一番目のイタリアでの学会は米国のアメリカ文学関係の学会が中心となって開催され、ソローとも関連の深いエマーソンやホーソーンについての研究発表が多く行われる予定である。
|