2012 Fiscal Year Research-status Report
ヘンリー・ソローの教育哲学における「円」、「成長」および「自由」
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23520316
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
小野 美知子 岩手医科大学, 共通教育センター, 准教授 (20326698)
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Keywords | ヘンリー・ソロー / 「自由」についての考察 |
Research Abstract |
平成24年度の研究成果としては、拙論「ルイザ・メイ・オルコットのソロー観」が『ソローとアメリカ精神ーー米文学の源流を求めて』という題名の「ヘンリー・ソロー没後150周年記念論集」の一論文として金星堂から10月1日に出版された。これは日本ソロー学会発行で、日本学術振興会科学研究費補助金研究成果公開促進費学術図書(課題番号245042)による刊行物である。また、製本が完成した段階で修正の必要が生じたためまだ発売されてはいないが、アーネスト・M・ファウラーによる詩『Tide Pools(潮だまり)』が絵本として拙訳付きで信山社から出版される。さらに、平成21年3月に学位を授与された博士論文は、「索引」の作業も終わり、まもなく出版の予定である。平成23年度から続く研究に関しては、"Thoreau and Freedom"という題で、10ページの英語論文を完成させた。すでに日本ソロー学会誌編集委員会に提出済みで、平成25年度の『ヘンリー・ソロー研究論集、第39号』に掲載される見込みである。内容に少し触れると、ソローの「自由」についての考察を、デカルト、カント、シモーヌ・ヴェイユ、ジョン・デューイ、エーリッヒ・フロム、ジョン・ステュアート・ミル、ベルグソン等、さまざまな思想家の考えとの比較において論じている。ソローは、「自由」を社会の枠組みの中で多く論じた一方で個人の「自由」を重視し、学校教師として目標としたのは、生徒の心を「知的に、道徳的に、感情的に」自由にすることであり、それは何よりも「個人的成長の自由」を求めたからであった。日本語の論文としては、「『成長』との関連における四季の循環の意義」を完成させたが、この論文では「円」に象徴される四季の巡りと、植物の「成長」を表象する直線の意義が論じられている。こちらは、『日本アメリカ文学会』の会誌に投稿の予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」の現在までの達成度としては計画に沿って進んでいると思われる。平成23年度は東日本大震災の影響のため研究が計画通りに進まず、「自由」をテーマにした論文をまとめることができなかったが、平成24年内に"Thoreau and Freedom"というタイトルで完成することができた。所属学会の会誌に載せるために10ページ以内に収めなければならず、当初の予定ほど多くを論じることはできなかったが、内容としては計画に沿っていると思う。古今のさまざまな思想家の「自由」に関する意見とソローの考察を比較できたのは興味深いことであり、いろいろな資料から学ぶことが多かった。 ソローにとって「自由」とは外的物理的強制がないというだけでなく、社会における独立した個人として「自らの考えを考える自由」、「自らの人生を生きる自由」、「自らの諸力を最高に働かせる自由」に加えて、「周囲の自然環境を探索する自由」も含まれる。そして教育に関しては、学校教育、生涯教育を問わず、心を知性、道徳、感情の面において自由にすることを目的とし、何よりも「個人の成長の自由」を重んじた。この研究成果は次の研究課題である「成長」へとつながるものである。 平成24年度の研究課題である「円」というテーマに関しては、予定したような広範な比較研究にはならなかったものの、「『成長』との関連における四季の循環の意義」という日本語の論文を完成させた。また、「ルイザ・メイ・オルコットのソロー観」では、オルコット作品の登場人物を通してソローの教育哲学を確認し、さらに、博士論文の出版のための作業に取り組んだことは、内容を再吟味することによって自らの研究をさまざまな角度から見直すことができ、今後の研究のための理解を深めるのに役立った。 以上のことから、平成24年度における「研究の目的」の達成度に関しては、順調であったと言えると思う。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、これまでの研究課題、「自由」と「円」に続けて「成長」というテーマに取り組み、ソローの教育哲学の基盤となる概念の研究を進める予定である。拙論 "Thoreau and Freedom"においては、ソローが政治的自由よりも道徳的自由に重点を置き、個人の「自由」の中でも特に「個人の成長の自由」を重視したことを論じた。また、「『成長』との関連における四季の循環の意義」では、四季の循環が『ウォールデン』の最も重要な「構成上の原則」であり、それは生物が極めて活発な夏に始まり、「再生」を象徴する春に終わること、また、第1章には著者自ら早春に家を建て始めたことが記されていることから、『ウォールデン』は、全体として、1年は一巡して春に戻るというイメージで構成されている点を指摘し、「1年は円である」というソローの言葉の意義にも注目している。植物の垂直で上向きの線状は「成長」を暗示し、「成長の象徴的パターン」を示唆する。また『ウォールデン』の最終章「むすび」には一連の、円環状ではなく、線状ののイメージが見られ、それがこの本の意義を完成する。ソローが2年の後にウォールデンを離れて市民生活に戻ったことは「円を打破すること」であり、その直線的な「飛躍」はイマジェリの観点から見ると、「成長」の象徴である。 平成25年度は上記の研究成果を踏まえ、「成長」をテーマに、さらなる研究を進めるつもりである。論文のタイトルとしては "Thoreau's Views on Growth in Relation to Flora"を考えている。ソローにとって植物の種は単に物質的な原因と結果によってではなく、「別の理法」によって果実の完熟に関係するものであった。今後の研究の推進方策としては、この点をソローの教育哲学と関連づけて探究する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、主に国内外の学会参加のために使用する予定であり、参加予定の大会は次の通りである。 1.日本英文学会 第85会全国大会(5月25日、26日 東北大学)2.2013 The Thoreau Society Annual Gathering(7月10日ー14日 Concord, Massachusetts)3.日本ソロー学会全国大会(10月11日 青山学院大学)4.日本アメリカ文学会 第52回全国大会(10月12日、13日 明治学院大学) その他にも、機会があれば、資料の収集のために国立国会図書館や県外の大学の図書館を利用したり、必要に応じて研究用の書籍を購入することもあると思う。現時点での次年度の研究費の使用計画は以上の通りである。
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Research Products
(3 results)