2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520317
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Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
海老澤 豊 駿河台大学, 法学部, 教授 (90298307)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 十八世紀英国の牧歌 |
Outline of Annual Research Achievements |
科研費交付4年目にあたる平成26年度は、課題である「英国十八世紀における牧歌の研究」の積み残し分として、1、地方色牧歌および歌風バラッドの研究、2、ギリシア・ローマの牧歌詩人、3、イタリアの牧歌詩人、に関する研究を進めた。 1、地方色牧歌および牧歌風バラッドの研究。ジョン・ゲイが『羊飼いの一週間』において、スペンサーやフィリップスの牧歌を揶揄するために、どこにもない方言を用いて滑稽味のあふれる牧歌を書いた。しかし英国の地方に住む詩人たちは、これに牧歌の新しい可能性を見出した。ラムジーのスコッツ牧歌、ドーソンのヨークシャー牧歌、レルフのカンバーランド牧歌がその例である。またリトルトンの『愛の進展』とシェンストンの「牧歌風バラッド」に触発されたカニンガムとウィリアムズはこれを発展させた。 2、ギリシアの牧歌詩人モスコスとビオンは牧歌を抒情詩あるいは物語師へと変貌させた。またローマの牧歌詩人カルプルニウスとネメシアーヌスは、ウェルギリウスの第四牧歌に想を得て、称賛詩まがいの牧歌を複数書いた。すでに牧歌の伝統に対する反抗が見られることは興味深い。 3、ルネサンス期のイタリアで牧歌が復活した。ダンテは書簡体の形式で牧歌に接近した。ペトラルカは牧歌にアヴィニョン教皇庁に対する批判を織り込み、実在する人物を羊飼いになぞらえた寓意的な牧歌を創案した。ボッカチオも師に習って同様の寓意的・風刺的な牧歌を書いた。さらにマンチュアヌスはカルメル派修道会の内紛を題材として、宗教的・風刺的な牧歌を書き、英国のスペンサーに多大な影響を与えることになった。 このように本年度は十八世紀英国の牧歌と、ローマ・イタリアの詩人たちによる牧歌を精読、研究した。その成果は「アラン・ラムジーの牧歌」および「十八世紀英国における牧歌風バラッド」として『駿河台大学論叢』第49号および第50号に掲載する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は英国十八世紀の牧歌を対象にしているが、牧歌というジャンルを考える場合に、テオクリトスやウェルギリウスの古典的な牧歌はもちろんのこと、その周辺にいたギリシアのモスコスとビオン、ローマのカルプルニウスとネメシアーヌスは当然押さえておかなくてはならない。本年度の研究ではこれらの詩人の作品について一通りの目安をつけることができた。 また十六世紀英国の牧歌詩人スペンサーに影響を与えた、十五世紀イタリアの牧歌詩人ダンテ、ペトラルカ、ボッカチオ、マンチュアヌスにも触れずに済ますことはできない。本年度の研究ではこれらの詩人についても、おおまかではあるが精読、研究を行なうことができた。 さらに十八世紀英国の牧歌で、これまで手をつけていなかった田園風牧歌の変遷についても、ラムジー、ドーソン、レルフなどの地方色牧歌と、リトルトン、シェンストン、カニンガム、ウィリアムズなどの牧歌風バラッドについても、おおよその特徴をつかむことができた。 以上の理由から、本年度の研究進捗度は「おおむね順調」と評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
科研費交付の最終年度を迎える平成27年度の研究推進方策は以下の通りである。 1、これまで個々の詩人や牧歌の下位ジャンルについて、バラバラに論文を書いてきた。だがテオクリトスに始まり、ウェルギリウス、イタリアの牧歌詩人、スペンサーなどを通して、十八世紀英国の牧歌に至る全体像をはっきりと示したい。相互の関連や影響関係についても考察を深める。また十九世紀のロマン派の時代に達すると、本研究で考察してきた古典の流れを汲む牧歌は事実上消滅する。その理由についても考察したい。 2、その上で単著の発刊に向けて、書式の統一や目次・索引の作成を行い、不足している点や矛盾している点を洗い出して、補足的な研究を押し進めたい。 3、最終的に「牧歌とは何であったか」という大命題に挑みたい。
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