2013 Fiscal Year Research-status Report
19世紀アイルランド小説のアイリッシュネスの発展と拡散に関する研究
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23520330
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
中村 哲子 日本医科大学, 医学部, 准教授 (20237415)
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Keywords | 19世紀 / アイルランド小説 / アイルランド旅行記 / アイルランド農民 / カトリック / ビッグ・ハウス / 大英帝国 |
Research Abstract |
19世紀の小説をめぐって、アイリッシュネスの発展と拡散を解き明かす研究の3年度目にあたる。初年度および2年度目における研究から、イギリス人を中心とした旅行者が書き残した当時の旅行記にも目を配り、そこでのアイルランドやアイルランド人の描き方を小説での扱いと比較・検討することが有効である点が明確となってきた。本年度の研究を進める過程で、小説と旅行記の比較研究によって、アイルランド内外でのアイリッシュネスの概念の多面性や齟齬が明らかとなり、イギリスの帝国主義的な文脈の中で、アイルランドとそこに住む人々の立場を新たな視点から捉えられる点がさまざまに確認された。特に、1810年前後から土地戦争が激化する前の1870年前後までの時代に焦点を絞ることで、その後のアイルランド民族主義運動が高まりを見せていく時代を見据える基盤研究が提示できる点も明らかになってきた。結果的に、旅行記に関する考察に多くの時間を費やし、挿絵などの関連図版についても意識的に考察を進めた。 本年度において具体的に展開した主たる点は、①旅行記の情報整理・収集および考察、②飢饉以降に刊行された小説の情報整理・収集および考察、③アイルランドの都市部(ダブリン、コーク、ゴールウェイ、ベルファスト、リメリック)にかかわる小説および旅行記における扱い方に関する考察である。③については、前年に展開した研究(アイルランド辺境の地の扱い)の発展であり、比較研究によって質の異なるアイルランド性を解き明かすことにもなった。なお、国際学会での成果発表、アイルランドと北アイルランドでの現地調査も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究を進める過程で研究の方向性を修正し、小説だけでなく旅行記により注目し、1810年前後から1870年前後までの時期におけるアイリッシュネスをより多角的に解き明かす研究を展開している。方向性についての見直しなどを図る過程で研究の進展ペースが落ちたことは否めず、最終的な研究目的に鑑みるとやや遅れている面がある。研究の推進が見込める環境を得ており、最終年度の目的達成に向けての研究遂行を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、飢饉以降の小説・旅行記の考察を中心に展開する必要があり、年度の前半には特に集中的に1850年代、1860年代の関連テクストおよび挿絵などの図版研究を進めることとする。その後は、研究全体のとりまとめと並行し、これまで随時展開してきたビッグ・ハウス小説を中心としたアングロ・アイリッシュ作家の小説におけるアイルランド的な要素を考察し、旅行記との関連も踏まえ、アイルランド性の消費の問題を扱うこととする。 平成25年度の研究成果を論文および研究発表にて公にする予定であり、さらに本年度から来年度にかけて、本研究を取りまとめる成果発表を準備していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度、研究の方向性について見直しを行い調整を図ることとなったため、結果として研究推進において遅れの生じた側面がある。特に当初予定していたように、インターネット上にて教育的な配慮を施して研究成果を一般に提供する段階に達することが叶わなかった。以上のことから、予定していたとおりに使用額を使用することが不可能となり、次年度での使用に回すこととした。 次年度において、次のような経費計上を計画している。1)新規に必要となる書籍の購入経費、2)成果発表に関わる経費、3)インターネット配信に関わる経費、4)研究機関の変更に伴う必要備品の購入経費、5)その他、研究取りまとめに必要な経費
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