2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520336
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
菅野 素子 早稲田大学, 文学学術院, その他 (10586176)
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Keywords | イングランドの状況 / 社会変動 / 経済状況 / イングランドの状況小説 / 多文化化 / ネイションの状況 |
Research Abstract |
1.新聞雑誌記事の内容分析 平成23年度に収集した「イングランドの状況」(the condition of England)という表現を含む新聞雑誌記事を対象に、この表現の意味の範囲や内容を分析した。さらに、比較検討のため、「イングランドの状況」と代替的に使用されることもある「ブリテンの状況」(the condition of Britain)、「南北分断」(north and south divide)、二つのネイション (Two Nations)についても用例を確認した。分析により、「イングランドの状況」は特に国内政治・経済・社会状況の変化に対する危機感を表出すると共に、近年ではスポーツにおけるナショナリズムの文脈での使用も多いことが見えてきた。 2.小説のテクスト分析 1980年~1985年にブッカー賞、ホイットブレッド賞の受賞作および最終候補作となった小説のテクストを対象とし、1)政治経済的な、および2)多文化化する「イングランドの状況」を示す叙述を調査した。その結果、本年度の調査対象においては、イングランドの国内問題よりも北アイルランドや南アフリカ等の政治的危機を現在もしくは歴史の問題として扱う小説、あるいは宗教の問題から社会の変化に切り込む小説が評価を受けていたことがわかった。その一方で書き手の文化的背景は多様化しており、移民労働者の増加と多文化化を本格的に検討する小説も登場した。 3.「イングランドの状況小説」言説の調査 上記を調査する中から、「イングランドの状況」と「小説」とが関連したものとして議論されるようになった流れを調査し、研究内容を補足する必要が浮かび上がってきた。このため、19世紀半ば以降の文学史に双方の関係を探る文献調査を行った。この結果、「イングランドの状況小説」は1930年代以降文学史上の言葉として使用されることになった可能性の髙いことが分かってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新聞雑誌記事における内容分析に関しては、計画していた以上の成果をあげることができた。当初の調査対象期間に限定することなく早稲田大学図書館データベースにて検索可能な範囲かつ代替的に使用される用語とも合わせて調査を行い、当該資料を分析した。このことにより、「イングランドの状況」を一種のコードもしくはキーワードとして考察するにあたって、件数的にも内容的にも相当数のサンプルが検討できたものと考える。 しかしながら、小説の調査、特にホイットブレッド賞の最終候補となった作品リストについては情報入手困難な状況が続いているため、本年度も受賞作のみテクストの内容調査した。対象となるテクスト点数が当初見込みより少なくなってはいるが、調査したテクストはいずれも時代を代表するテクストであり、本課題の研究目的の達成にそれほどの影響はないものと考える。 また、一般的な言説としての「イングランドの状況」と小説との結びつきを考察するため、英文学史における「イングランドの状況小説」の記述を調査した。本研究は「イングランドの状況」という表現の言説化、すなわちイングランド社会と小説という媒体との相関関係を検討するものであるが、この調査はその目的を具体化するもののひとつであり、本課題の研究目的の実現に資するところ少なくないと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には当初の計画どおり推進する。 平成24年度末で未使用金が発生しているが、これは新聞雑誌記事調査にかかる費用が当初見込みよりも少なく済んだためである。 新聞雑誌記事の内容分析結果に関しては、件数が相当にあるため、調査結果を内容的にも数量的にも比較対照できるようにデータを整理する方向で進める。 ホイットブレッド賞最終候補作のデータについては、引き続き入手困難な状況が続いている。代替的な方法として、昨年度の実施状況報告書において、ホイットブレッド賞と同等の権威を持つサマセットモーム賞の受賞作を分析に加えて調整する予定であったが、引き続きデータ取得の努力を続けている。よって、平成25年度前半までに最終候補作の情報が収集できなかった場合、この代替的方法を分析対象に加えることとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画どおりとする。 なお、平成24年度に未使用金として平成25年度に繰越した資金は、本課題の最終年度に予定している国内および海外での口頭発表にかかる旅費等に充当する予定である。すでに、2013年7月英国バーミンガムで行われる学会での口頭発表が決まっている。
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Research Products
(2 results)