2011 Fiscal Year Research-status Report
近代ロシア文学の成立に見る記号としてのヨーロッパの「風景」
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23520370
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金澤 美知子 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (60143343)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安西 信一 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (50232088)
宮田 眞治 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (70229863)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ロシア文学 / 18世紀 / ヨーロッパ / 自然風景 / センチメンタリズム / ロマン主義 / 翻訳 / カラムジン |
Research Abstract |
本年度は研究分担と手順を確認して上で、研究環境を整備し、基本的な文献を収集した。18世紀ロシアの一次文献は書籍として購入不可能なものが多いので、必要に応じて複写等で入手した。なお研究年度全体を通じ、大まかに次のような分担が設定されており、今年度もこれに基づいて作業を進めた。 イギリス文学、文化、風景及び視覚表象関連:安西信一が担当 / ドイツ文学、文化関連:宮田眞治が担当 / フランス文学、文化:金沢美知子と安西信一が担当 /ロシア文学、文化、ロシア文学関連及び作業全体の構成とまとめ:金沢美知子が担当 なお金沢は、まず18世紀後半ロシアの文学テクストにおいてヨーロッパの「風景」が果たしている役割、及び「風景」が絵(картина)、場面(сцена)としてテクストに取り込まれる仕組みの基本的傾向を考察した。センチメンタリスト、特にカラムジンとジュコフスキーの作品をとりあげ、「風景」の記述および関連する視覚的な叙述を調査した。 さらに、カラムジンの作品に関しては、彼がJ.トムソン『四季』、レッシング 『エミリア・ガロッティ』、シラー『運命の戯れ』等、18世紀の西欧の作品を数多く翻訳していることに注目し、原典と翻訳との間の差異や描写の傾向などを考察した。この作業は、次年度以後の研究を発展させる可能性を示したものと考える。 なお、成果の一部は日本18世紀学会の刊行物等に掲載し、国際会議で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度はまず作業開始時期に立てた計画に即して、18世紀末から19世紀初頭のロシア・センチメンタリズムにおいて西欧の風景が果たした役割を考察し、基本的な傾向を把握した。その後、センチメンタリズムの時代の翻訳作品、翻案作品のリストアップに着手したが、この作業の過程で、政府による外国文学、文化の移入と紹介の事業の役割を考慮する必要があることが明らかになった。そのため、本年度の後半で研究計画を変更することになった。以後は対象作品の範囲を拡大して調査を継続しているが、作業は多少遅れ、本年度の残りの作業は来年度に繰り越さざるをえなくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は前年度の作業を継続、発展させ、特に次の作業を行う。。1.ルソーの著作、特に『新エロイーズ』が提供したアルプス及びレマン湖周辺の風景の役割を分析し、また『孤独な散歩者の夢想』における自然観賞の行為の描写がロシア文学に与えた影響も併せて考察する。(金沢)2.近代ロシア文学の「風景」の源泉となっているイギリス文学の視覚表象について調査する。また、ピクチャレスク論のロシアでの受容を明らかにする。 (安西、金沢)3.イギリスのゴシック小説、ロマン主義文学や湖水派、墓地派がロシア文学に与えた影響を考察する。ロシア前期ロマン派の詩人であり、翻訳者でもあったジュコフスキーの仕事について調査する。(金沢)4.ゲーテの『ヴェルテル』は18世紀後半ロシアの文学表象の源泉となっていた可能性が高い。『ヴェルテル』を取り巻く文学環境について調査し、この作品に登場する人名、地名や諸モチーフがどのような経緯でロシア文学の中に持ちこまれ、どのような形でロシア的変容を経験したかを考察する。(宮田、金沢) 平成25年度は本研究の最終年度として、作業を総括し、成果を纏める。具体的には、1.毎年の情報交換、作業進捗状況報告を踏まえ、研究成果報告会を行う。2.研究成果を逐次、口頭及び論文の形式で日本ロシア文学会、日本18世紀ロシア研究会、日本18世紀学会等で発表する。3.成果の一部を『ロシア18世紀論集』に発表する。4.成果全体をまとめる形で「研究成果報告書」を提出する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記、平成24年度研究計画に即して、次のような作業に研究費を使用したい。1.18世紀末から19世紀初頭ロシアにおける西欧の文学作品の翻訳を調査し、購入その他の方法で収集する。これは昨年度の作業の継続である。特に18世紀ロシアの1次文献に関しては、現在出版されているものはきわめて少ないので、国内外の研究機関からコピーを取り寄せることも必要であろう。2.パソコンおよびその周辺機器等を整備し、関連分野の専門家との情報交換や研究上の意見交換に利用する。3.海外で資料を調査し、必要なものを収集する。4.経過報告も含め、成果を纏めて論文集として発行する。
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