2011 Fiscal Year Research-status Report
ボヘミア文学史・民俗誌記述におけるローカリズムの位相
Project/Area Number |
23520379
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
三谷 研爾 大阪大学, 文学研究科, 教授 (80200046)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
|
Keywords | ボヘミア / 文学史記述 / 民俗誌 / 地域性 / アウグスト・ザウアー / アドルフ・ハウフェン |
Research Abstract |
本研究課題は、中欧の典型的な多言語・多民族地域だったボヘミアを対象とし、ナショナリズム対立がきわめて深刻化した1890年代~両大戦間期に、ドイツ系知識人によって蓄積された、この地域の文学史・民俗誌的な学術情報のディスクール分析をおこなうものである。その初年次にあたる本年度は、このテーマにかかわる最新の研究状況、ならびに関連する一次資料の国内外における保存・収蔵状況を確認し、あわせて現地研究者との意見交換を進めるとともに、19世紀末から1920年代までドイツ・プラハ大学のドイツ文学講座を主宰した研究者アウグスト・ザウアーの講演『文学研究と民俗学』(1907年)をひとつの徴候的なテクストとみて、その内容を精査した。 ザウアーのドイツ文学史構想においてきわめて特徴的な点は、「地域性」の重視である。そうした立場は、当時の反実証主義的な思想潮流への批判として構築される一方、ドイツ圏の文化的均質性を前提としていることが確認された。後者を補強するものとしてザウアーが積極的に援用したのが、当時ようやくアカデミズムの世界でひとつの専門分野としての位置を確保しつつあった民俗学である。そのために彼は、ボヘミアにおけるドイツ民俗学の開拓者アドルフ・ハウフェンと緊密な協力関係を築き、文学史と民俗学を両輪とする学知蓄積の体制を整備していった。文学研究と民俗学』の検討から、以上のような学問史的コンテクストを確認することができた。 こうした学的状況が、じっさいにおこなわれた文学史・民俗誌記述をどのように規定しているのか、また研究者たちの社会的実践とどのように交差するのかを検証していくことが、次年度以降の作業となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドイツおよびチェコにおいて、文学研究者・歴史家・民俗学者が提携して展開している学際的研究の成果がここ2年間にあいついで出版された結果、それらを参照することにより、系統的な文献探索を順調にすすめられた。また研究協力者の中村真は、別財源によって得られたチェコ研究滞在の機会を利用し、現地において本研究課題に関連する文献の収集作業に従事することができた。さらに、ザウアーの『文学研究と民俗学』の精査により、当時の学的状況の俯瞰的に把握することができ、次年度以降に検討すべき問題の所在が明らかとなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究協力者の中村真と分担しつつ、ボヘミア地域に関する個別的・具体的な文学史・民俗誌記述のテクストを分析する。そのさい、同地における政治的・社会的な変化につねに留意し、とくに第一次世界大戦を挟んでのハプスブルク帝国解体/チェコスロヴァキア第一共和国成立により、学知の編成と蓄積にどのような変動が生じたかを追跡する。また、ドイツ人研究者とチェコ人研究者の言説レベルでの対立状況の内実とその意味について、チェコ語資料の検討もふまえ、丁寧に掘り起こしていく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、研究協力者が別途財源により海外出張の機会を得て現地での文献調査・収集をおこなえたことなどを考慮して、研究費を執行した結果、当初の見込額と異なる執行状況となった。本研究課題の計画じたいに変更はないが、次年度は研究代表者が半年間のサバティカルを得られることになったため、その期間を積極的に利用した研究費執行を予定している。 具体的には、ボヘミア文学史・民俗誌は、日本国内での収蔵がきわめて少なく、また同地の総合文化雑誌および郷土研究誌を媒体として発表されたものが多いことをふまえ、チェコ・ドイツ・オーストリアの図書館や文書館での文献調査作業を軸に、本年度の未執行研究費を含めての研究活動をおこなう。
|
Research Products
(2 results)