2012 Fiscal Year Research-status Report
ボヘミア文学史・民俗誌記述におけるローカリズムの位相
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23520379
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
三谷 研爾 大阪大学, 文学研究科, 教授 (80200046)
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Keywords | ボヘミア / 文学史記述 / 民俗誌 / 地域性 / アウグスト・ザウアー / アドルフ・ハウフェン |
Research Abstract |
本研究課題は、中欧の典型的な多言語・多民族地域だったボヘミアを対象とし、ナショナリズム対立がきわめて深刻化した1890年代 ~両大戦間期に、ドイツ系知識人によって蓄積された、この地域の文学史・民俗誌的な学術情報のディスクール分析をおこなうもので ある。 2年目にあたる本年度、研究代表者はサバティカルにより長期の海外研究滞在が、また研究協力者の中村真は別財源による現地資料調査が可能になったため、それぞれ当該の機会を利用して初年度の文献収集作業のさらなる拡充に取り組んだ。とりわけ、19世紀末から1920年代にいたるボヘミアでの文学史・民俗誌研究の形成状況について、文学史家アウグスト・ザウアーとならぶ大きな役割を果たした民俗学者アドルフ・ハウフェンの著作活動をフォローする資料を入手できたことは、本研究課題の今後の展開にとって重要である。それによって、ザウアーとハウフェンが協同して構想したボヘミア地域文化研究が、実際にどのようなディスクールとして実践されていくかを検証することができるからである。さらにまた、両者の影響のもとにあったアドルフ・ヴォルカンおよびヨーゼフ・ナードラーによるボヘミア地域文学史記述を検討対象に加える必要があることも確認した。 他方、研究代表者はベルリンにおいて、ドイツ側とチェコ側の双方の研究者を組織しながら当時の学知の状況の発掘にあたっているシュテフェン・ヘーネ教授(ヴァイマール大学)と繰り返し研究情報を交換する機会を得た。それにより、ボヘミア地域文化の統合/反統合のダイナミズムの解明をめざす同教授らのプロジェクトの問題意識が、本研究課題のそれときわめて近い関係にあることを確認した。 次年度以降、ボヘミア地域に関する文学史・民俗誌記述テクストを具体的に検討し、その内容と方向性を明らかにしていくことを中心に、研究を展開する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者、研究協力者とも、ドイツおよびチェコにおいて現地調査にあたる機会を得ることができ、当初計画で想定していたよりもはるかに徹底した文献収集をおこなうことができた。ことに、ハウフェンが樹立したボヘミア・ドイツ民俗学の形成過程を検証することのできる資料の入手は、本研究課題の今後の展開を大きく助けるものである。また、ヴォルカンやナードラーの文学史的著作を視野にとらえる必要性を見いだしたのも、重要な知見である。さらに、このテーマに関して国際的な共同研究を組織してきた研究者ヘーネとの研究交流により、本研究課題の位置をあらためて確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
前半の2年間で収集できた一次文献は、質量ともに、当初計画を超えるものであり、次年度はそのうちとくにハウフェンの著作を中心に、解釈と分析作をすすめる。研究協力者はチェコ語資料を中心に、ハプスブルク帝国末期からチェコスロヴァキア第一共和国期における、ドイツーチェコの文学史・文化史分野での人的交流をさらに追跡し、両者のあいだで学知のいかなる部分が共有され、いかなる部分が共有されえなかったかを検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
文献資料については、本年度に収集した文献資料のデジタルデータ化などの整理作業をおこなうとともに、ヘーネを中心とする国際共同研究の成果を精査するなど、二次文献の収集・検討の作業を強化する。後者を徹底するために、研究代表者および研究協力者とも、必要に応じて短期的な現地調査を実施する。 また、本研究課題の人文学における位置を検討するため、隣接他分野における「歴史記述」や「地域性」の議論の水準のフォローアップに努める。
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Research Products
(2 results)