2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23520381
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
増本 浩子 神戸大学, その他の研究科, 教授 (10199713)
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Keywords | 独文学・独語圏文学 / 現代スイス文学 / 自伝 / 国際情報交換 / ドイツ:スイス |
Research Abstract |
本研究の課題は、スイスの現代作家フリードリヒ・デュレンマット(1921-1990)の後期の作品を認識論的観点から分析し、自伝の可能性について考察することである。25年度の課題は晩年の散文『素材』(1981/1990)を分析対象とし、『素材』の自伝としての特殊性を分析することだった。明らかになった点は次の通りである。 1.『素材』は文学的素材の歴史を語ることで作家の人生を語るという特異な自伝であるが、このような書き方になっているのは、そもそも本当の人生を描くものとして自伝/伝記を書くことは不可能であるとデュレンマットが考えているからである。 2.作家のあれこれの経験ではなく、頭の中で考え出した文学的素材の歴史を語るという自伝の在り方は、「考えたこともまた現実の一部である」というデュレンマットの認識に基づいている。このような認識は『素材』とほぼ同時進行で書かれた映画台本『ミダス』(1970/1980-84/1990)にも見られる。 3.『素材』に収められた最後のエピソード「脳」では、この「考えたこともまた現実の一部である」というアイデアが最もラディカルな形で表現されている。つまり、このエピソードにおいては、人類の歴史が、ひとつの脳の考え出したものとして語られているのである。 4.デュレンマットと同時代に活躍したスイス人作家マックス・フリッシュ(1911-1991)も自伝/伝記の不可能性の問題に取り組んでいる。フリッシュは自伝風短編小説『モントーク』(1975)において、一見フィクションを排した「本当の人生」を描こうとしているように見えるが、実はこの作品には50~60年代にかけて書かれた自作からの引用が多用されている。つまり作家の実人生が自作の引用からなる生として描かれているのであって、この趣向はデュレンマットの『素材』の趣向から遠いものではない。
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Research Products
(3 results)