2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520398
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
渡邉 浩司 中央大学, 経済学部, 教授 (20278401)
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Keywords | 仏文学 / アーサー王物語 / 聖杯伝説 |
Research Abstract |
平成24年度は平成23年度に続き、古フランス語散文「聖杯物語群」関連の文献収集と先行研究の総括を行うとともに、「聖杯物語群」の中で最初に成立した『ランスロ本伝』と最後に創作された『メルラン続編』の挿話分析を試みた。依拠した「聖杯物語群」のテクストは、ボン大学図書館526番写本を底本としたプレイヤッド版『聖杯の書』である。 まず文献収集については、8月中旬にパリのフランス国立図書館を訪ね、日本では入手が困難か不可能な文献の参照や入手に努めた。 次に先行研究の総括については、平成23年度に行った「聖杯物語群」中の「三部作」(『ランスロ本伝』、『聖杯の探索』、『アーサー王の死』)を対象とした古典的な著作の批判的な検討の成果は、研究会での口頭発表と大学の紀要類に寄稿した論考のかたちで公表した。平成23年度に行った総括では、フランスの中世文学研究者の業績を中心に検討したが、平成24年度は主として英米系の研究者による業績を参照して補足を試みた。また平成24年8月末に来日されたフィリップ・ヴァルテール氏(グルノーブル第3大学)からは、「聖杯物語群」分析にあたっての貴重な助言をいただいた。 最後に「聖杯物語群」に属する物語の挿話分析については、『ランスロ本伝』の冒頭に位置する「苦しみの砦」挿話をさまざまな角度から分析し、大学の紀要類に論考を発表した。一方で『メルラン続編』(ボン写本では『アーサー王の最初の武勲』)については、「ローザンヌの怪猫の話」に代表される超自然的な要素が色濃い小話の分析を試みたほか、『ランスロ本伝』冒頭に登場する騎士ファリアンが『メルラン続編』の結末で写本ごとに2つの異なる扱い方をされていることが「聖杯物語群」成立の謎を解く鍵となっていることを明らかにした。いずれの挿話も、本邦の「アーサー王物語」研究では、これまで注目されることのなかったものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究実施計画では、文献収集と先行研究の総括の継続と並行して、物語の挿話分析も予定されていた。 文献収集については、平成23年度に続き平成24年度も、8月中旬に行ったフランス国立図書館(パリ)での調査により、ほぼ予定通り進んだ。日本では入手困難な書籍や学術雑誌に発表された複数の論文を参照でき、大変有意義であった。平成25年度も引き続き、書籍や雑誌論文を含めた関連文献の収集に努める。 「聖杯物語群」を対象とした先行研究の総括については、平成23年度はジャン・フラピエを始めとしたフランスの中世文学研究者による古典的な著作の検討を中心に進めたのに対し、平成24年度は主として英米系の研究者による業績の検討を行った。この観点から行った平成23年度の研究成果は、第80回チョーサー研究会(2012年7月)での研究発表、中央大学人文科学研究所『人文研紀要』第73号(2012年9月)に掲載された論文のかたちで公表された。 「聖杯物語群」に属する物語の挿話分析については、物語群の中核をなす『ランスロ本伝』の冒頭に位置する長大な「苦しみの砦」挿話をめぐる考察を、中央大学仏語仏文学研究会の機関誌『仏語仏文学研究』第45号(2013年3月)に掲載した。一方で、物語群中で最後に成立した『メルラン続編』(『アーサー王の最初の武勲』)の神話学的分析については、平成23年度に論考を発表した「グリザンドールの話」の分析に続いて平成24年度には、「ローザンヌの怪猫の話」の分析を中心に試みた。さらに平成23年に論考の対象となった『ランスロ本伝』冒頭に登場する騎士ファリアンは、『メルラン続編』の結末で戦死するか生存するかが写本ごとに異なることが分かり、「聖杯物語群」成立の最終段階の謎に迫ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
3年計画の最終年にあたる平成25年度は、先の2年間で行った「聖杯物語群」を対象とした先行研究の総括に充てるとともに、物語群の個々の独創性を明らかにする作業を中心的に行う。 具体的な物語分析については、「聖杯物語群」の中核をなす『ランスロ本伝』に注目し、物語の構造、物語がサイクルの中で果たす役割、物語に含まれる神話的要素などを分析する。本研究で「聖杯物語群」のテクストとして用いているプレイヤッド版『聖杯の書』全3巻は、ボン大学図書館526番写本を底本としているが、断片を含めると53点が現存する写本では、内容上3分割されることの多い『ランスロ本伝』が、ボン写本では4分割されている。「聖杯物語群」を伝える写本の数は、断片も含めれば160点以上に及ぶが、物語群全体を収録する写本は8写本にとどまり、1286年に筆写されたボン写本は、物語群の成立にとって最初期の証言の1つとして極めて重要である。この写本において『ランスロ本伝』の4分割が、写本独自の編集方針の反映であることを、作品の詳細な分析から明らかにしたい。 一方で、平成23年度と24年度に行ってきた『メルラン続編』(『アーサー王の最初の武勲』)の小話分析の成果は、平成25年度中に公表予定である。『メルラン続編』は「聖杯物語群」の中で、別個に成立した前半(『アリマタヤのヨセフ』と『メルラン』およびその『続編』)と後半(『ランスロ本伝』に始まる「三部作」)をつなぐ部分にあたり、物語群を完成させるため最後に創作された部分であるため、物語群成立過程の最終段階をたどる上で重要である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
設備備品費については、主として書籍の購入に充てる。購入予定の書籍類は大別して2種類あり、1つは古フランス語散文「聖杯物語群」を含む「アーサー王物語」関連のもので、もう1つは神話学的アプローチに必要な神話・伝承関連(主として「アーサー王物語」のルーツとされるケルト関連)のものである。それぞれ20冊ずつ購入する予定である。 旅費については、日本ケルト学会九州支部の定例研究会(会場は西南学院大学)で研究成果の一部を報告する予定であるため、そのための移動と滞在費に研究費の一部を充てる。
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Research Products
(3 results)