2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23520398
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
渡邉 浩司 中央大学, 経済学部, 教授 (20278401)
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Keywords | 仏文学 / アーサー王伝説 / 聖杯伝説 |
Research Abstract |
3年計画の最終年度にあたる平成25年度は、先の2年間で行った「聖杯物語群」を対象とした先行研究の総括を踏まえて、「物語群」中の『メルラン続編』と『アーサー王の死』から独創的な挿話を選び、その神話学的分析を試みた。依拠した「聖杯物語群」のテクストは、ボン大学図書館526番写本を底本としたプレイヤッド版『聖杯の書』である。 初年度に行った13世紀散文「聖杯物語群」成立過程の分析で、構造上「物語群」の前半と後半を繋ぐ位置にあり、なおかつ最後に創作された部分としてその重要性が明らかになった『メルラン続編』は、若きアーサー王が一連の武勇を見せる叙事的な物語であるため、ボン写本ではいみじくも『アーサー王の最初の武勲』と呼ばれている。この作品には一方で、超自然的な要素が色濃い小話群が散見されるが、本筋との関連が希薄であるとみなされ、これまで評者の関心を集めることはなかった。物語の創作過程で口頭伝承が書承に劣らぬ重要な役割を果たしたことを明らかにするために、本年度はこうした小話群から「エナダンとゴーヴァンの小人への変身」と「アーサー王によるローザンヌ湖の怪猫退治」を取り上げ、その神話的背景を明らかにした。「聖杯物語群」の掉尾を飾る『アーサー王の死』については、最終場面でアーサー王が酒倉長リュカンを圧死させる挿話の分析を試みた。この挿話から垣間見ることができるのは、12世紀以降のヨーロッパで「物語」の形で流布した「アーサー王神話」が、「熊」の神話から少なからず着想を得ていたという事実である。 本邦の「アーサー王物語」研究では神話学的観点から分析されることのなかった、以上の挿話群をめぐる本研究の成果は、共著書や学術雑誌に論考の形で発表された。なお研究の過程では、フィリップ・ヴァルテール氏(グルノーブル大学名誉教授)や「日本ケルト学会」に属する研究者たちから貴重なご指摘をいただいた。
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Research Products
(5 results)