2011 Fiscal Year Research-status Report
インド中世前期におけるシヴァ教文学―一般信徒向け文献を中心として―
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23520426
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
横地 優子 京都大学, 文学研究科, 准教授 (30230650)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 外国文学(中・英・仏・独除く) / サンスクリット文献学 / ヒンドゥー教 / プラーナ文献 / シヴァ教 / 国際研究者交流(オランダ) / 国際共同現地調査(インド) / カーヴィヤ |
Research Abstract |
1. 本研究の柱の一つであり、国際共同プロジェクトとして行われる『スカンダプラーナ』校訂研究については、本研究者が担当する31, 34章および海外研究協力者のBisschop(ライデン大学教授)と共同校訂となる32章の校訂を終え、8月後半にグロニンゲン大学(オランダ)で行われたスカンダプラーナ・プロジェクトの集会にて討議し、最終版を完成した。10月以降は引き続き38~41章の校訂を行っており、これは2012年8月後半に行われる同プロジェクトの集会にて討議する予定である。2. 同プロジェクトのメンバー7名にて、1月に北インドでスカンダプラーナに関わるシヴァ教遺跡・碑文の現地調査を行った。主な調査地域はHardwar, Kalinjar, Barbar, Mundeshvariである。特にMundeshvariでは同文献中のMandalesvaraをこの地と同定する強い証拠を得た。またKalinjarでは9~12世紀にかけてのパーシュパタ派及びタントラ系のシヴァ教の影響を示す豊富な資料を見出すことができた。3. 本研究のもう一つの柱であるシヴァ信仰を示す詩については、9世紀カシュミールで著された長編詩『カッピナ王の興隆』が、従来考えられていた仏教詩ではなくシヴァ教詩であり、仏陀がシヴァの下位の顕現の一つとみなされていることを解明し、9月の日本印度学仏教学会と1月にデリーで開催された国際サンスクリット学会にて発表した。成果は印度学仏教学研究に論文として掲載した。4. 8月に中部ジャワで行われた国際夏季集中サンスクリット合宿に参加して、東南アジアのサンスクリット碑文の専門家であるGriffiths博士(フランス極東学院ジャカルタ支部長)とともに、6~12世紀における王権によるシヴァ教の庇護を示すいくつかの碑文を読む機会を得た。Griffiths博士とは研究情報の交換を続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の柱の一つである、『スカンダプラーナ』の校訂研究を核とする当時の北インドのシヴァ教研究については、校訂研究およびインドでの現地調査の両方について、当初の実施計画の予定通りに進めることができた。また、もうひとつの核であるシヴァ教信仰に関わる詩の研究についても、当初の年度予定であった『カッピナ王の興隆』の研究を進め、国内・国際学会での発表、学術雑誌への論文掲載を行うことができた。シヴァ教プラーナ文献の検索用データベース作りは、中部ジャワでの国際夏季集中サンスクリット合宿に参加したために、謝金に使える費用が不足したため、現在はウェブで入手できるデータの検索用の形式統一を行った段階である。一方、サンスクリット合宿への参加を契機に、東南アジアのサンスクリット碑文の実地調査・解読に関わり、かつ当該分野の専門家との継続的な情報交流を開始することができたことは、今後の研究進展に大きく貢献すると期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 『スカンダプラーナ』については、当初の研究実施計画に沿ってBakker(グロニンゲン大学教授)を首班とする国際共同プロジェクトでの校訂研究を続けるとともに、前科研の成果である同文献の写本関係の研究と全体の構成分析をもとにして、同文献の成立年代・製作過程に関する考察を行い、その成果を刊行する予定である。他の中世前期に作られたシヴァ教プラーナ文献の大部分はこの文献の影響を大きく受けているため、この研究を基礎として25・26年度には他のシヴァ教プラーナ文献の構成分析を行う。2. シヴァ教詩『カッピナの興隆』については今年度に全体の構成に関する研究を行ったので、来年度は当初の研究計画に則り、写本を再校合し文献学的な基礎研究を行う。各章ごとの詳細な研究も開始するが、本格的に取り組むのは25年度以降になる。また 当初の計画にはなかったが、来年度はスリナガル(カシュミール)にて短期間にはなるが、現地での遺跡・写本調査を行う予定である。中世カシュミールの他のシヴァ教詩(特に『ハラヴィジャヤ』と『シゥリーカンタチャリタ』)の写本が所蔵されているようなので、できる限り収集する努力をする。3. シヴァ教遺跡調査については、今年度北インドのスカンダプラーナに関わる場所の調査を行った。今後はカシュミールでの調査(24年度)、当初に計画した中・南インドの遺跡調査(25年度)を順次行う予定である。25年度以降に行う中・南インドの遺跡調査については24年秋ころまでに具体的な調査計画をたてる。4. 当初計画にはなかった東南アジアのシヴァ教関係のサンスクリット碑文については、すぐにその成果を現在の研究に活かせるわけではないが、長期的なインド中世のシヴァ教研究という視点からは重要な資料であり、今後も機会をみて当該分野への理解を深めると同時に、専門家との研究交流を継続する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1. 本研究はその一部が国際的な共同プロジェクトの一環であること、インドでの現地調査を必要とすることから、海外旅費への支出が研究費の大部分を占める。来年度はまず6月後半に一週間ほど、スリナガル(カシュミール)にて、現在インドに留学中の院生とともに共同で遺跡調査と写本収集を行う。次に、8月後半から9月前半にかけてグロニンゲン(オランダ)にて行われる、毎年恒例のスカンダプラーナ・プロジェクトの集会に参加し、各自がそれまでに校訂した章について討議するとともに、メンバー各自の研究成果について発表・討論を行う。1月にはカンボジアで開催される国際集中サンスクリット合宿に参加し、Griffiths博士等の東南アジアのサンスクリット碑文の専門家とともに、シヴァ教関係の碑文の解読、現地調査を行う。2. 謝金を用いて、シヴァ教プラーナ文献のデータベースづくりを継続する。3. 現地調査にはGPS機能がついたiPadが非常に有用なので、25年度の長期の現地調査に備えて必要な機種を購入する。また写本の複写費またはデジタルファイルの購入費が必要である。
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Research Products
(4 results)