2014 Fiscal Year Research-status Report
日本現存朝鮮古刊本の調査とその語学的・書誌学的研究
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23520440
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Research Institution | Reitaku University |
Principal Investigator |
藤本 幸夫 麗澤大学, 言語研究センター, 客員教授 (70093458)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 朝鮮文献学 / 中国文献学 / 日本文献学 / 木版 / 活字 / 出版文化 / 朝鮮語学 / 訓読 |
Outline of Annual Research Achievements |
筆者は日本現存朝鮮本を日本各地の図書館や文庫、そして嘗て日本にあり、その後流失して現在は台湾故宮図書館・イギリス大英図書館に所蔵されている書籍をも、現物を一一踏査確認しながら、40数年にわたって調査・研究を行ってきた。 日本には韓国・朝鮮にもない貴重な書籍が多く、しかも完全に保たれている。中国書が本国では既に失われ、朝鮮で刊行されて伝存する場合も多く、また日本の学問・学芸は朝鮮の影響を深く蒙ってきた。従って朝鮮本研究は朝鮮学はもとより、中国学・日本学の研究に寄与するところが大きく、その基礎資料を学会に提供すべく努めてきた。既に日本現存朝鮮本の9割以上は調査を終えており、7年前に刊行した「集部」に引き続き、今年度中に「史部」を刊行の予定でその作業を目下行っている。 本年度は東洋文庫・東京大学図書館・京都大学図書館・天理大学図書館を中心に調査及び研究を行った。朝鮮本はいつ何処で出版したという記録(刊記)が、残されていないことが普通である。朝鮮本の15-17世紀刊本には書物自体に、その版木を彫った刻手の名や地名が残されていることが多く、それを整理統合することによって、その書の刊行年や刊行地が特定できる。その作業には書籍が完全に保たれていることが重要で、日本現存朝鮮本はその条件に合う。この作業を上記図書館所蔵書によって進めてきた。 近年日本の訓読が古代朝鮮の影響を受けている可能性が高まってきた。筆者は朝鮮本を研究するとともに、語学方面からも関心を持ち、朝鮮訓読の調査研究を進めてきた。東洋文庫所蔵『牧牛子修心訣』を研究し、韓国・日本の訓読研究者を糾合して、筆者編で『日韓漢文訓読研究』(勉誠出版 2014年秋)を出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ申請通りに調査研究を実施できた。現在それ以前の調査分を含め『日本現存朝鮮本研究 史部』を今年度中に出す予定で、作業を進めている。これはA4版、上下2段、約1300ページ、約200万字から成る。本書は日本各地の文庫・図書館、更には台湾故宮図書館・イギリス大英図書館所蔵の歴史に関する分野、即ち史部の書籍を、最大28項目を記述したものである。各書に対する客観的な記述の他、筆者が数百冊に及ぶ参考資料を駆使した研究も付されており、寧ろこれが本書の中心を成す。 この研究には筆者が四十数年行ってきた各書に対する調査研究、更に刻手名に対する徹底的な調査研究がその基本をなしている。 他方日本現存朝鮮本を用いて訓読研究を行い、筆者編で『日韓漢文訓読研究』(勉誠出版 2014年秋)を出版した。これは日本及び韓国で第一線に立って訓読研究を進めておられる延18名の論文を集めたもので、新羅・百済・奈良から朝鮮朝に及んでいる。これによって両国文字文化の親近性が一層明らかになった。ウイグルの訓読や中国宋代の文字遣いに及んでいる。本書はこの方面の初めての本格的研究書で、日本古代語研究に大いに寄与するものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
筆者の研究は実際に現物に接して、28項目を調査・記述するもので、初めて接する書で複雑な場合は、一部の書に対して2‐3日かかる場合もある。特に序・跋が多く、内容の構成が複雑で、刻手名が多く刻され、又蔵書印が多い場合は、大層な時間が必要である。しかしそれらを記述しておかず、表面的な記述に終われば、結局は役に立たない。筆者の研究は、朝鮮本の客観的記述と筆者の研究を含んでいるが、前者は数百年の生命を持つ。万一書籍が失われることがあっても、その書が目前に彷彿とするような記述を旨としている。そのような記述をしておけば、その書が中国本に基づく場合でも、底本を特定することが可能である。 書籍に永い寿命を持たせようとすれば、それだけの時間と労力が必要とされる。安直なものは、結局は命短く、役に立たない。今日の如く成果が直ちに求められる時にこそ、基礎的で確固たる、息の長い研究が必要であろうと考える。 筆者は既に70歳を過ぎているが、健康に支障はなく、日本現存朝鮮本研究の完成に及ぶまでの調査研究費とデーター入力費の、継続的助成を望むところ切である。
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Causes of Carryover |
来年度に出版予定『日本現存朝鮮本研究 史部』の原稿作成(約200万字)のため、自宅の作業が多かった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国内図書館調査等に使用
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Research Products
(12 results)