2011 Fiscal Year Research-status Report
諸言語における二重母音と二重母音化の普遍性と類型論的一般性の研究
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23520461
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
渡部 眞一郎 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (90116145)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / 音韻論 / 音響音声学 / 二重母音 / 通言語的研究 / 類型論 / データベース / フィールドワーク |
Research Abstract |
本研究課題の目的は、諸言語における多様な二重母音と二重母音化にみられる一般性と個別性を共時的、通時的な研究分析および音響音声学の分析など多角的な方法によって明らかにすることである。 平成23年度においては、以下の問題に取り組み、研究成果を挙げた。(1)二重母音のデータベースの作成:諸言語の二重母音を含む母音体系のデータベースの作成に取り組んだ。二重母音に関する普遍的特徴や類型論的一般性に関する研究においては、できるだけ多くの言語・方言をデータベースに組み込む必要があるので、今後も作成を継続していく。(2)二重母音に関わる共時的、通時的音声過程の網羅分類:二重母音を生み出す共時的、通時的音声過程を諸言語の文献調査により収集することにより、これらに共通する特徴を分析した。(3) 二重母音化を引き起こす要因の研究:二重母音化を引き起こす要因として音声的な要因と個別言語の構造要因が挙げられ、諸言語からの事例に基づいてこの二種類の要因について分析した。音声的要因として母音の音色と聞こえ度、tenseとlaxの違いが通言語的に重要であること、そして構造要因としては、ある音変化が別の音変化を引き起こすという連鎖のなかで、二重母音化が起こることを数多くの事例により明らかにした。(4) 二重母音の音響音声学的研究:二重母音の特徴および世代差による変化について音響音声学的に分析するための一次資料の音声データを英国ロンドンとフランスのパリで実地調査により収集した。また、系統の異なる諸言語の二重母音を音響音声学的に分析することは通言語的な一般性の研究にとっては重要であり、その分析は現在も進行中である。この目的のために、今後も他の言語について、実地調査をして第一次資料を収録する必要がある。研究成果は、平成23年度に論文として公表した。また、平成24年5月に公刊される論文においても公表する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的として以下の問題に取り組み、順調に進展している。(1)二重母音を生み出すメカニズムについて:従来、生成音韻論では二重母音を母音または半母音の挿入規則によって得られる派生的なものとして捉えられてきたが、諸言語には多様な二重母音が存在しており、従来の方法では二重母音の生起のメカニズムを捉えられない。本研究では、諸言語の二重母音のデータベースの作成、二重母音を生み出す数多くの音声過程、音変化の研究を通して、二重母音の生起と推移のメカニズムの一端を明らかにすることができた。(2)二重母音の推移の方向性についての一般性:単母音が二重母音化する時のその仕方と二重母音が別の二重母音に推移する時の仕方には、共通点があり、三種類の異化作用として捉えられることを諸言語の具体例により示すことができた。 (3) 二重母音化の音声的要因の解明:音声的文脈と関係なく起こる二重母音化においても、二重母音化する母音の音声的要素が二重母音化の仕方に大きく関与していることが諸言語の分析により明らかになった。さらに、単母音がなぜ二重母音化するのかという問題については、母音の音声的要因だけではなく、個別言語における構造要因(母音推移等)が関係していることも明らかとなった。この点については、さらに多くの言語の分析によって解明できる余地がある。 (4) 音響音声学による現在進行中の音変化の研究: 現代のロンドン英語の発音の実際を対象として、音響分析のソフトを用いて世代の違いにより二重母音の発音がどのように変化、推移してきているかを分析するための一次資料である音声データを連合王国ロンドンで実地調査により収集できた。この音声データは本研究にとっては極めて重要な分析素材となる。ただし、世代間の違いを音響分析するためには量的に十分ではないので、平成24年度においても同地に赴いて実地調査する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度においては、まず平成23年度で行った研究をさらに深め推進していく。同時に、その研究成果に基づき、ケーススタディとしてゲルマン系のノルウェー語、ロマンス語系のフランス語(特にカナダのケベック州において話されるフランス語)と日本語の系統の異なる3言語を取り上げて、言語内的証拠による分析を行い、通言語的観点から考察する。ノルウェー語では方言差が大きく、古ノルウェー語の長短母音の音韻的対立が単母音と二重母音の対立に置き換えられている方言(Setesdal方言)が存在し、類型論的にも興味深い。標準的なAurland方言との対比により、二重母音の変異を分析する。カナダのケベック州のフランス語は、フランス共和国のフランス語と違って多くの二重母音が存在する。その二重母音の変異について分析し、その分析結果を通言語的な一般性に照らして考察する。 次に、系統の異なる上記の3言語および英語の二重母音について、Praatという音声分析ソフトによりフォルマントの推移に関する分析を行い、その音響音声的共通性、個別性について検討する。この目的のために、ノルウェーとカナダにおいて実地調査をして第一次資料を収録する計画である。 さらに、現在進行中の言語変化として観察される二重母音の音変化あるいは音推移を音響音声学的に分析する。具体的には、連合王国ロンドン地域における現状の英語発音の実際を対象にして、英語の二重母音が世代間でどのように推移してきているかを音響音声学の方法により、フォルマント分析によって調査研究する。ロンドン地域の英語発音は、伝統的な容認発音とコクニーアクセントが混成したものと言われているが、当然のことながら、世代間で発音の違いが認められる。特に、二重母音の発音の違いについて定量的に示したいと考えている。そして、その推移が通言語的な普遍性、一般性に符合するか否かを検証したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度には長期の国外出張による実地調査をする計画であることに鑑みて、平成23年度分の予算の一部を平成24年度の研究費として使用したいと考えます。その国外出張の必要性については以下の通りです。 英国ロンドン地域の現在の発音において世代間で実際に進行している二重母音の音推移・音変化を音響音声学の方法を使ってフォルマント値により定量的に分析し、その音推移と二重母音に関する通言語的な一般性との符合性を検証することが本研究課題の重要な目的である。この研究を行うための一次資料となる音声データの収集を昨年度ロンドンに出張し、ロンドン大学を拠点として実地調査により行った。しかしながら、世代間での二重母音の発音の違いを定量的に分析するためには、音響音声学の分析研究の素材となる一次資料の音声データをさらに充実させる必要があり、今年度もロンドンに赴いてロンドン大学を拠点として音声データの収集を実地調査により行いたい。さらに、もうひとつの関連する研究目的である系統の異なる言語における二重母音の音響音声学的特性の研究のために北欧ノルウェーとカナダのケベック州およびフランス共和国に出張して一次資料としての音声データの採集のための実地調査研究を実施したい。ノルウェーではベルゲン大学、カナダではケベック州モントリオールのマギル大学を拠点として、フィールドワークを行う予定である。また、フランス共和国へは英国ロンドンでの実地調査研究の後、帰路の途中に赴き、パリ大学を拠点として音声データの収集のための実地調査を行いたい。 また、本研究の最終年度の平成25年度においては、スウェーデンで開催される北欧英語学会の大会(三年毎に開催)にて研究成果を発表する予定である。
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Research Products
(1 results)