2012 Fiscal Year Research-status Report
諸言語における二重母音と二重母音化の普遍性と類型論的一般性の研究
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23520461
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
渡部 眞一郎 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (90116145)
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Keywords | 二重母音 / 共時的音韻論 / 通時的音韻論 / 音響分析 / データペース / 音声過程 / 類型論 / 普遍的特徴 |
Research Abstract |
本研究課題は、諸言語における多様な二重母音と二重母音化にみられる普遍的特徴と類型論的一般性を共時的および通時的な研究分析によって明らかにすることを目的とする。その目的のために平成24年度は以下のことを行った。 (1)二重母音を含む母音体系のデータベースの作成を平成23年度に引き続き行った。できるだけ多くの言語・方言をデータベースに組み込むように努めた。(2) 二重母音に関わる共時的、通時的音声過程の網羅分類、とりわけ(i) 長母音が二重母音化する過程、(ii) 短母音が二重母音になる過程、(iii) 二重母音が単母音化する過程、(iv) 同一言語の異なる方言での二重母音の変異とこれに関わる過程等を文献資料により収集して、二重母音を生み出すメカニズムと二重母音の変化・推移の方向についての一般性を研究した。そして、二重母音化を引き起こす要因の研究を通して、なぜ単母音が二重母音化するのか、そしてなぜ特定の仕方で二重母音化が起こるのか、について要因分析を行った。(3)ケーススタディとしてノルウェー語とアイスランド語と同様に古西ノルド語を祖とするファロー語(Faroese)を取り上げて、その母音体系の変遷にみられる二重母音化と二重母音の展開について考察分析し、通言語的な観点からその分析の妥当性を検証した。その研究成果は論文としてまとめ発表した。 さらに、音響音声学の方法により、二重母音の音声特性を分析するための予備調査を行った。とりわけ、連合王国ロンドン地域の現在の英語発音における二重母音について世代間で実際に進行している音推移を同定し、その音推移と通言語的な一般性との符号性を検証することが本研究のひとつの目的であるが、その音響音声分析のための一次資料となる音声データを収録するために、ロンドンに出向いて、フィールドワークを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
二重母音は二つの母音の組み合わせで、母音体系の周縁的な存在として長年考えられてきたために、重視されることなく、散在的な研究は存在するものの、二重母音やこれを生み出す二重母音化の体系的な研究は国内、国外ともに存在しないと言える。本研究課題では、平成23年度に発表した論文“Diphthongs and diphthongization revisited"のなかで、二重母音が母音体系の基本的部分を構成するという考えを支持する種々の事例(たとえば、母音推移によってしばしば長短母音の音韻対立が単母音と二重母音の音韻対立に取って替わられる例など)を取り上げ、分析を示した。 本研究課題の学術的な特色は、二重母音と二重母音化の最初の体系的な研究を提供することにある。そのために、(1) 通言語的、類型論的な観点から諸言語の多様な二重母音を対象として、その特徴を分析してきた。(2) その分析結果を踏まえて、ケーススタディとして古西ノルド語を祖とするファロー語(Faroese)の母音体系の変遷を考察し、二重母音がどのように生み出され、変化していくのかという問題について考察分析した論文 “The evolution of vowels and diphthongs in Faroese”を発表した。(3) 現代のロンドン地域における英語発音における二重母音の世代の違いによる変化の仕方を音響分析するための一次資料を収集するためにロンドン大学を拠点として実地調査を2年続いて行った。これらの一次資料は最終年度の研究の核となるものである。 本研究課題の目的は、二重母音と二重母音化について相互に関連する複数の異なる言語分析方法を用いた体系的な研究を行うことであり、その達成度はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は本研究課題の最終年度になるので、本研究課題の集大成をめざす。今後の研究推進方策としては、第一に、二重母音を生み出す共時的推移、通時的音声変化についての総合的な研究によって、二重母音の推移と変化に共通する特徴として抽出した特徴についてさらに検証をすすめる。第二に、二重母音の研究において解明すべき重要な問題として、なぜ単母音が二重母音化するのかという問題と、母音が二重母音化する時になぜ特定の二重母音になるのかという問題について音声的要因と構造的要因の両面から検討することが重要であることを過去2年の発表論文により示してきたが、この点をさらに検証する。第三に、諸言語の多様な二重母音について、フリーウェアのPraatという音響分析ソフトによりフォルマントの推移に関する分析を行う。すでに、ロンドン地域での実地調査による音声データの録音収集を行っている。さらに、世界の歴史的系統の異なる諸言語の二重母音を含む音声データについても、収集してきているので、これらのデータを音響分析することにより、二重母音の音響的特徴について考察する。 特に、音響音声学の方法を用いて、現在進行中の言語変化として観察される二重母音の世代の違いによる音変化について考察する。具体的には、英国ロンドン地域における現状の英語発音の実際を対象にして、英語にみられる二重母音が世代間でどのように推移してきているかを音響音声学の方法により、フォルマント分析によって調査する。ロンドン地域の英語発音は、伝統的な容認発音とコクニーアクセントが混成したものと言われているが、当然のことながら、世代間で明瞭な違いが認められる。特に、二重母音の発音の違いについて定量的に示したいと考えている。そして、その推移が通言語的な普遍性、一般性に符合するか否かを検証したい。その研究成果を論文として公表する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、世代の違いにみられる二重母音の推移の音響分析の一次資料の量をさらに増やすために連合王国ロンドン地域での実地調査を行いたい。ロンドン地域の英語発音において世代間で進行している二重母音の音推移・音変化を音響音声学の方法を使ってフォルマント値により定量的に分析し、その音推移と二重母音に関する通言語的な一般性との符合性を検証することが本研究課題のひとつの重要な目的である。この研究を行うための一次資料となる音声データの収集を一昨年度、昨年度ロンドンに出張し、ロンドン大学を拠点として実地調査により行った。しかしながら、世代間での二重母音の発音の違いを定量的に分析するためには、音響音声学の分析研究の素材となる一次資料の音声データをできるだけ多く収集する必要があり、次年度もロンドンに赴いてロンドン大学を拠点として音声データの収集を実地調査により行いたい。
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Research Products
(1 results)