2014 Fiscal Year Research-status Report
継承沖縄語と大和沖縄語――談話構造とコミュニケーション方略の国際比較研究
Project/Area Number |
23520466
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
宮平 勝行 琉球大学, 法文学部, 教授 (10264467)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / 継承沖縄語 / 大和沖縄語 / モダリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
大和沖縄語の話者がしばしば用いる発話末形式「~ようね」(例:「行ってこようね。」)のモダリティと対話機能について考察し,その成果を国際危機言語学会で口頭発表した。相互行為におけるモダリティを「発話内容に対する話者の立場(スタンス)や話者による主観的な評価,および聞き手のスタンスに関する話者と聞き手の間主観的な意識」と規定し,「~ようね」が用いられる際のモダリティの諸要件と相互行為上の機能について考察した。その結果,大和沖縄語の発話末形式「~ようね」のモダリティは,標準日本語とは異なる固有のものであり,基層語(沖縄語)の影響が見られることがわかった。基層語が具体的にどのように介入しているのかを明らかにした上で論文にまとめる予定である。 前年度に国際多文化ディスコース学会で口頭発表した沖縄語の普及運動にまつわる言語イデオロギーを考察した研究を共同研究者と共に論文にまとめる作業を行った。沖縄語は独立した言語なのか,それとも日本語の一方言なのかという論争に注目し,参加型のソーシャルメディアでは,普及活動を率いる沖縄語教材制作者が想定する言語イデオロギーが様々な抵抗にあい変容していくことを世界各地から寄せられた投書をもとに実証した。 これらの活動と並行して,香港で6月に行われる予定の国際学会(「グローバリゼーションの社会言語学」)に向けて研究発表を申請し受理された。コメディ劇団FEC(フリー・エンジョイ・カンパニー)が演じる新喜劇「米軍基地を笑え」シリーズに登場する米軍人,中国人,日本人観光客,そして地元の人々がどのような言語変種や言語スタイルで表象されているかを考察したものである。「尖閣諸島」という新喜劇の例に見られるように,国家間の対立の中にあって周縁化され可視化されることのない地域の不満や抵抗をお笑い芸人がどのような言語リソースを用いて表現するのかに注目する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究で大和沖縄語に固有な談話標識や言語リソースの一端が明らかになりつつある。「さ」「よ」「わけよ」といった発話末尾の相互行為助詞の用法からは,会話への参与機構が固有な形式で現れることがわかってきた。また,複合発話末形式「~ようね」の考察からは,基層語の影響を受けて現代の若者ことばにモダリティ用法が継承されていることもわかってきた。こうしたミクロな視点からの分析で大和沖縄語の固有な談話構造の一部を明らかにすることができた。 研究を進めるにつれてソーシャルメディアや新喜劇といった新しい言語使用領域における大和沖縄語や継承沖縄語の役割にも注目するようになった。沖縄語普及運動を支える言語イデオロギーの考察や言語景観に埋め込まれた大和沖縄語の表現形式の分析,そして海外の沖縄県人コミュニティにおける沖縄語の継承運動の実地調査などはこれまでに論文にまとめて刊行することができた。こうしたマクロな視点からの考察は継承沖縄語による対話の背後にある社会・文化的な文脈を的確に捉えるために欠かせない成果となっている。 一方で当初から計画していた談話構造やコミュニケーション方略の国際比較分析は計画よりも遅れている。米国・ロサンジェルスやブラジル・サンパウロで聞き取り調査や会話資料の収集は手がけてきたものの,英語と沖縄語あるいはポルトガル語と沖縄語のコード切り替えが生じる会話の分析には膨大な時間を要する。今後は現地で行った聞き取り調査の結果も参考にしながら,会話データを厳選した上で分析を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は本研究プロジェクトの最終年度にあたるため,これまでの研究活動の総括に取り組む。これまでの調査の結果,大和沖縄語が多用される言語使用領域は新喜劇やラジオトーク,ソーシャルメディア上の対話などであることがわかってきたため,それらの領域におけるデータの分析を更に進め,メタ分析を行うことで大和沖縄語のモダリティや談話構造およびコミュニケーション方略の一般的特性を明らかにしたい。それと併せて海外で収集したデータの分析を進め,継承沖縄語についても同様の考察を進める。大和沖縄語と継承沖縄語の比較分析を通して両者に共通する談話の特性の一端を明らかにすることで総括とする予定である。 また,当初の計画通り,大和沖縄語が原因となる社会的な問題を取り上げプロジェクトの集大成とする予定である。たとえば,医療や介護の現場では高齢者と医療・介護に従事する若い人の間でコミュニケーション・トラブルが増えているという。沖縄県においては高齢者が話す沖縄語と若い人が話す大和沖縄語の会話のもつれがその原因のひとつとして挙げられている。医療・介護の現場で実際に会話を収録し,これまでにわかった談話の構造,コミュニケーション方略,言語イデオロギーなどの視点から考察する計画である。しかしながら,医療や介護の現場ではプライバシー保護の観点から日常会話を収録するのは難しいことが予測される。医療や介護の現場で会話データを収集できない場合は,個別に高齢者のグループと若者グループにインタビューを行いその結果を比較対照し分析を進める予定である。それを踏まえて世代間の格差を埋める沖縄語の継承はどうあるべきか問い直してみる。
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Causes of Carryover |
ブラジル・サンパウロにおいて調査を実施したが,当初負担する予定だった共同研究者分の旅費の一部を支出しなくても良くなったため,その分を次年度使用することにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度になる本年度は国内外の国際学会で論文発表を複数回行う予定である。そのための旅費に充てる予定である。
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Remarks |
「平和憲法を考える機会にーーコミュニケーションの問題提起」沖縄タイムス『論壇』(2014.6.20)
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Research Products
(2 results)