2015 Fiscal Year Research-status Report
継承沖縄語と大和沖縄語――談話構造とコミュニケーション方略の国際比較研究
Project/Area Number |
23520466
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
宮平 勝行 琉球大学, 法文学部, 教授 (10264467)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / 継承沖縄語 / 会話分析 / コミュニケーション方略 |
Outline of Annual Research Achievements |
香港で平成27年6月に行われ国際学会(「グローバリゼーションの社会言語学」)において,研究協力者(Dr. Peter Petrucci)と共同で口頭発表を行った。コメディ劇団FEC(フリー・エンジョイ・カンパニー)が演じる新喜劇「米軍基地を笑え」シリーズに登場する米軍人,中国人,日本人観光客,そして地元の沖縄県民がどのような言語変種や言語スタイルで表象されているかを考察した。継承沖縄語,大和沖縄語,標準日本語,片言の英語,そして沖縄語の俗語が言語リソースとして上述した4者の成員カテゴリーを形成する様子を会話データをもとに明らかにした。さらに,尖閣諸島を巡って先鋭化した国家間の対立の中にあって,周縁化され不可視化される地域の不満や抵抗をお笑い芸人がどのように表現するのか,言語変種とコミュニケーション方略に注目して論じた。 平成25年10月に国際多文化ディスコース学会で口頭発表した研究内容を研究協力者と共同で一編の論文にまとめ,Journal of World Languagesに提出した。沖縄語(ウチナーグチ)の保存を目的としたオンライン学習教材がYouTubeにアップロードされることによって,国内では沖縄語が方言として認識され,海外ではひとつの言語としてとらえられている実状から見えてくる言語イデオロギーについて論じた。危機言語としての沖縄語を復興するには,まず(方言ではなく)世界の危機言語のひとつとしての地位を確立することが先決であることをビデオ学習教材のマルチモーダル分析と視聴者の文字コメントの分析をもとに論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
発話末尾の相互行為助詞に注目した継承沖縄語による談話構成の特徴や複合発話末形式「~しようね」の固有なモダリティなどのミクロな分析においては,現代沖縄ことばの談話構造とコミュニケーション方略の一端を明らかにすることができた。加えてソーシャルメディアや新喜劇といった言語使用域に注目し,談話データをマルチモーダルな観点から分析することによって,継承沖縄語や大和沖縄語といった言語変種がどのように実践されるのか記述することができた。同時にこのような実践がどのようなイデオロギーを具現しているのかメタ・レベルの分析を行うこともできた。サンパウロにおける草の根の沖縄語継承運動についても論文にまとめることができた。当初の計画どおり研究活動は着実に進展しているが,残された課題も多い。 継承沖縄語が海外の移民子弟のコミュニティでどのように実践され,どのような機能を担っているのか,更に考察を深めたいと考えている。その上で,国内で収集したデータやソーシャルメディアなどから得られたデータをもとに考察したこれまでの研究結果と比較分析を行うことが次の課題である。移民子弟の談話データは英語やポルトガル語,標準日本語,そして継承沖縄語の混用になるため複雑な構造になる。そのような複雑な談話データの分析に最適な分析手法を確立した上で研究を進めて行く予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画を一年延長し,今年10月26日から30日までの予定で行われる第五回「世界のウチナーンチュ大会」の期間中に海外から沖縄を訪れる移民子弟を対象にインタビュー調査を行う予定である。五年おきに開催される大会にはブラジル,ペルー,ボリビアといった南米の国々や米国本土,ハワイなどから多くの移民子弟が訪れるため,期間中にできるだけ多様な言語文化圏の来訪者にインタビューを行う予定である。インタビュー調査ではこれまでの研究を更に深化させるため,沖縄語の継承活動に関する課題点や言語接触がもたらす言語変異,そしてその背後にあるイデオロギーについて考察を深める。 あわせて出身地別グループの自然会話を収録し,コード切り替えの現象や言語変種の機能について更に分析を進める。微視的な談話構造の分析をとおして基層語の沖縄語が移民子弟の英語やポルトガル語のディスコースにおいてどのように生起し,どのようなコミュニケーション方略として用いられているのか明らかにしたい。 これまでに収集したデータの分析も引き続き行い,世界のウチナーンチュ大会で更にデータを増強した上で,継承沖縄語と大和沖縄語を含むディスコースの国際比較を行うことが本年度の主たる目標である。最終年度となる本年度は,平行してこれまでの研究成果をより体系的なものにまとめ上げ,先述した談話研究の国際比較をもってその異同を明らかにし総括する予定である。
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Causes of Carryover |
平成28年10月26日から30日にかけて第五回「世界のウチナーンチュ大会」が沖縄県にて開催される。海外から多くの沖縄移民子弟が沖縄を訪れるため,この機会に継承沖縄語に関するインタビュー調査と自然会話の収集を行うため研究期間を一年間延長したのがその理由である。ニュージーランド在住の研究協力者とともに沖縄県内で集中的な調査を行うため次年度に使用することにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究調査の結果を国際学会で口頭発表する予定であるため,そのための旅費として使用する計画である。「世界のウチナーンチュ大会」期間中,ニュージーランド在住の研究協力者を沖縄県に呼び寄せるための旅費も必要となる。また,ボルトガル語のデータの翻訳及び分析に必要な謝金に充てる予定である。その他,研究活動に必要な研究書や資料収集に必要な経費として使用する計画である。
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Research Products
(1 results)