2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520603
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
大橋 浩 産業医科大学, 医学部, 准教授 (40169040)
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Keywords | 主観性 / 間主観性 / 主観化 / 間主観化 / 構文化 / 強意副詞 / 文法化 / 応用認知言語学 |
Research Abstract |
平成24年度は、引き続き、収集した文献とコーパスからの用例の分析を行い、主観化・間主観化に関するTraugottによる概念規定の有効性を検証した。その成果は論文(「『だいたい』における多義の関係」『言語と文化の対話』(2012)山崎和夫・松村瑞子(編)花書院、13-29ページ)として発表した。また、主観化・間主観化と密接な関係にある文法化についての解説と文法化における主観化・間主観化の事例研究として前年度の成果である英語強意副詞の発達についての論考(「第7章文法化」『認知言語学 基礎から最前線へ』(2013発刊予定)高橋英光・森雄一(編)くろしお出版)を執筆した。 具体的には、前者では、副詞「だいたい」の多義を概略を表す意味と説き起こしという談話的意味に大別したうえで、さらにそれぞれの意味を分類し、隣接する意味間の類似点と相違点に焦点を当て意味間の関係を浮き彫りにした。その上で共時的分析から意味間の拡張関係やその拡張を主観化と見ることができる可能性を指摘した。また後者では、Traugottの主張に沿って文法化・(間)主観化の解説を行い、all you wantの発達を構文化として捉えること、また、その意味分析においてはTraugottによる共時的な(間)主観「性」と通時的な(間)主観「化」に関する規定が有効であることを示した。 平行して前年度より進行中であった意味論の入門書である図書1の校正をおこなった。 また、新たに、認知言語学を大学英語教育に応用する試みとして「応用認知言語学」への取り組みを共同研究として始め、シンポジウムとして発表1を行い、大学英語教育学会(JACET)に新たに「応用認知言語学研究会」を立ち上げ、共同研究者として25~27年度の科研を獲得した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の「研究目的」は、(1)主観化と間主観化が生じる通時的順序についてコーパスを資料に綿密な調査を行い、(2)主観化が間主観化に先行するというTraugott等の主張を検証し、(3)調査によって得られた結果をもたらす要因や動機について認知論的観点から考察し、(4)意味変化の基盤を、間主観化が喚起されやすい会話に置く理論と、間主観化が主観化に先行するというデータとの整合性を模索する、という4点である。 (1)~(3)についえはすでに23年度に行った研究によって達成された。また(3)に関してはall you want、big time、「だいたい」についての事例研究を通して、言語表現が(間)主観性を表すようになる要因として話し手による表出性が基盤にあることがさらに検証された。 (4)に関しては、調査を行ったかぎりでは間主観化が主観化に先行する例はない。また、事例研究のうち、特に「譲歩」の意味の扱いに関する考察から、Traugottが主張する、主観化・間主観化を、共時的な主観性・間主観性と区別して、単なる含意ではなく、意味として記号化していることー意味化ーとして狭く規定することの有効性が検証された。 なお、主観化ー間主観化の通時的順序の要因については、文法化についての考察、執筆を通して、意味変化一般についての考察がさらに必要であると思われる。 23年度よりやや達成度の進展がゆるくなったが、それは、計画当初予定になかった、「認知言語学 基礎から最前線へ」の執筆、発表1とそのために第二言語習得や英語教育への認知的アプローチによる先行研究の調査が必要であったことによる。しかし、これらの研究は直接的、間接的に本研究の進展、充実に資するものであると確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」であげた研究目的にそって研究を進める。 (1)~(3)に関しては新たに Having said that(「とは言うものの」)という表現が分詞構文から譲歩的なイディオムとしての意味を定着化させたプロセスをCOHAによって調査し論文を執筆する。特に文脈から推測される話し手の態度を主観化・間主観化という要因から考察する。また、この論考を含め、23~24年度に行った強意副詞の発達と(間)主観性(化)の関係について学会発表(第12回国際認知言語学会(6月28日、カナダ、アルバータ大学)を行う。 また、Traugott流の主観性(化)とLangacker流の主体性(化)の融合の可能性をひきつづきさぐる。ある程度論考がまとまった段階で研究会や学会で口頭発表を行う。 なお、本件空の基礎となる研究として、意味論の入門書の翻訳書を分担執筆したものが出版される(当初の予定が遅れ、現在最終校が進行中)。また、認知言語学の観点から文法化について分担執筆したテキスト(『認知言語学 基礎から最前線へ』)が出版される(8月刊行予定)。さらに、本研究から派生した研究活動として、認知言語学の英語教育への応用について科研のメンバーや研究会のメンバーと研究を行う予定である。 本年度は3年間の研究期間の最終年度であることから、年度末には研究成果の報告書を作成する。この報告書は冊子の形で印刷し、また、大学のホームページ上に掲載することにより研究者に広く公開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
設備備品費:前年度同様に、先行研究や新たに発表される知見を得るために図書を購入する。 旅費:本研究の成果発表として第12回国際認知言語学会(6月28日、カナダ、アルバータ大学)で、Grammaticalization and Subjectification in English Intensifiersというタイトルで口頭発表を行う。また、新たな事実や知見を求めて日本認知言語学会などの学会や研究会に出席する。 その他:必要に応じて文房具、印刷費等に使用する。 なお、24年度に当初予定になかった研究活動の一部として学会発表(The JACET 51st International Conventionにおけるシンポジウム)を行ったため旅費に繰越額が生じている。
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