2012 Fiscal Year Research-status Report
日本生育外国人児童のリテラシー発達に関する基礎研究―日本語作文の縦断調査―
Project/Area Number |
23520615
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
齋藤 ひろみ 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (50334462)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 篤嗣 帝塚山大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (30407209)
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Keywords | 日本生育外国人児童 / リテラシー発達 / 作文分析 / 横断・縦断研究 / 計量・形質的分析 |
Research Abstract |
平成24年度は日本生育外国人児童の出来事作文(2008―2012年分)を4つの方法で分析し、3つの学会で発表した。 (1)リーダビリティ(文章分析ソフト)による計量分析(横断研究、縦断研究):作文量(文字数、文数)、文構造の複雑さ(文節数、複文割合)等から分析し、学年による変化と日本人児童と比較を通して考察した。作文量は中学年までに日本人児童に並ぶが、文の複雑さは高学年になっても遅れ気味であった。この結果を、8月に名古屋大学で行われた国際日本語教育研究大会において発表した。 (2)KH-coderを利用した語彙調査(横断研究):KH-coder(テキストマイニング分析ソフト)を利用し、総語彙数、異り語彙数、使用頻度上位語、語彙ネットワークについて調べた。異語彙数は日本人児童に比べそのバリエーションが少ないこと、日本人児童が学年によるネットワークが顕在化するのに対し、外国人児童は話題によるネットワークが強固であるという特徴がみられた。この結果を8月に東北大学で開催された社会言語科学会において発表した。 (3)接続形式に着目した複文構造の分析(縦断研究):2007年度入学児童の5年分の作文について、複文の従属節の接続形式と機能に着目して分析し、日本人児童との比較を行った。その結果、接続形式の種類数は日本人児童との間に差はなかったが、外国人児童には、接続形式と機能の対応の固定化傾向があった。また、口頭表現が作文に多く利用されていた。この結果を、12月のお茶の水女子大学で開催された日本言語・文化研究会において発表した。 (4)作文の内容評価による分析(縦断研究):2007年度入学児童の5年分の作文について、ルーブリックを用いて評価し、その得点から作文内容の豊かさや作文構成力の発達について分析を行った。平成25年度の日本語教育学会春季大会での発表が決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度も、予定通り作文を収集し、平成23年度に実施した量的分析に加え、内容分析、文法上の誤り、表記の誤りについて分析を行い、作文を多角的に、構造化して捉えることに力を注いだ。 しかしながら、作文の分析作業については、想定していた以上に時間を要し、当初の予定より遅れ気味である。これまでの外国人児童の作文分析に関する研究の蓄積がまだ多くはないため、分析の基準や分析の枠組みについては、試行錯誤を繰り返しながら調整して進めてきたためである。 また、データ分析の補助作業を担当させている大学院生の入れ替わりが頻繁であったことも、分析作業の効率が悪かった原因の一つである。本年度は、その対策として、大学院修了生で長期的に関われる人材を確保して、分析を進めている
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Strategy for Future Research Activity |
(1)研究内容:今年度も、同一の学校で「遠足」に関する出来事作文を収集する。また、今年度は、同対象児童に「私の学校の良さを、隣の学校の友達に説明する」という作文課題を課し、これまでと同様の観点から分析を行った上で、作文ジャンルによる違いについても考察を行う予定である。また、他の学校の日本人児童からも同種の作文を収集し、異なる地域で生活する日本人児童作文との比較を行い、地域的特性の影響に関しても考察を進める。 (2)研究成果の公開:平成24年度に3つの学会で発表した研究成果を、論文として公開する準備を進めている。 また、ルーブリック評価による内容分析の結果、文法の誤り・表記の誤りの分析結果を、5月の日本語教育学会、9月の社会言語科学会において口頭発表をする予定である。 なお、当初は、3カ年の成果を報告書を作成して公開する予定としていたが、出版社との交渉により、書籍化できる可能性が高まった。そこで、まず、3カ年にわたる本課題の最終結果の公開の場として、言語小数派の児童の言語獲得に関する専門家を数名招聘して本テーマに係るシンポジウムを開催し、本研究の成果の研究的・教育的価値について議論する。その議論を受けて、成果を書籍化する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究経費としては、次の3費目で支出を予定している。 (1)物品費:データ分析の作業を進めるためのスキャナー、データ保管のためのハードディスク、その他データ管理のためのファイル、作業のための文具などを購入する。 (2)旅費:国内の学会で2回程度の発表を予定しており、研究分担者の他、学内の共同研究教員、およびデータ分析補助員(発表時の補助のため)の交通費・宿泊費として支出を予定している。加えて、公開シンポジウムで招聘する専門家の旅費・宿泊費が必要となる。 (3)謝金等:年間通してデータ分析補助員を雇用するため、その謝金の支出を見込んでいる。また、公開シンポジウムの開催に当たって、専門家の招聘するため、その講師謝金の支出を予定している。
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